にじいろオフィスの仕事術

「『鄙事』っていうのは日常の些細なことっていう意味でね。誰にでもできそうな簡単で小さなことでも、しっかり処理することが一番大切だっていうこと」

「簡単で、小さなこと……」



言われて、以前に橋爪の不満を栞奈にこぼしているときに言われた言葉を思い出す。



『……聞けばどれも他愛のないことばかりじゃん、実際のところ頑張ってるの?』



それはつまり、そういうことだ。



「押し付けがましく言ってたのは悪かった。ただ、俺は雑用だと思う仕事も大事だと思ってるし、それができなきゃ大きな仕事なんてできないって思ってる」

「……はい」



耳が痛い。

今回の自分がまさに良い例だ。



「お前のこと嫌いなんじゃない。ただ俺と一緒に頑張って仕事してもらいたかっただけ。……わかった?」



まるで少年のように笑い、八重歯を覗かせる。

これが営業課でできる男と一目おかれていた人なのだと、今更ながらに納得する。

希美はそんな彼の気持ちに応えたくて「はい」と力強く頷いた。

それを見て、橋爪は安心したように希美の頭をぽんぽんと優しく叩き、パソコンの電源を消し始めた。



(それ、女子は沸騰しちゃうよー!!)



頭ぽんぽんは罪だ。

希美の心が掻き乱される。



「お前、今夜ひま?」

「え!?  あ、はい。予定はないです……けど」



一瞬ドキッと心臓が暴れるが、次の言葉で冷静さを取り戻す。



「そしたら書類探しやるぞ。俺も付き合う」

「そんないいです、悪いし!」

「いいから。俺もこのままじゃ気になって研修行けない」



言うや否や、羽織るジャケットを椅子にかけて真っ白なワイシャツの袖をまくり始める。

頭を触って余韻に浸っていた希美だったが、やる気満々の橋爪の姿を見て慌てて自分も戦闘態勢に入る。




中心は希美のデスク、最大範囲は総務課内……ターゲットが定まると、甘い空気を吹っ飛ばした二人の大捜索作戦が始まった。