「えっ……。」
思わず、声が漏れた。
「どうしてそれを、」
「どうしてって、俺がつけたキスマークですよ。それくらいわかります。」
あの出来事があった夜、シャワーを浴びようと洗面台の前に立った時、あるものに気が付いた。
鏡に映るその首筋に、赤いしるし。
彼がつけたのだ、とすぐに気付いたのだが、問題はそれからだった。
場所が場所なだけに普段着ているVネックの服ではそれが見えてしまう。そのためストールを巻いてみたり、苦手なタートルネックを着るはめになった。
しかし、それだけではなかった。
「この痕見る度にあの夜のことを思い出しちゃって、……うんざりしてた。」
最初は考えたくもなかったあの出来事。
考えたくもなかったはずなのに。
日が経つにつれて薄くなっていくそれとは反比例するように、あの記憶が鮮明に蘇ってくる。
その現実に目を背けていたが、もう。
「時間が過ぎれば忘れられると思った。だけどね、反対だったの。時間が経つにつれて記憶が濃くなっていくの。」
「……。」
「……もう無理だよ。」
「神崎さん。」
もう戻れそうにない。
この気持ちを知らなかった頃に。
だから、
「……責任、取ってくれるんでしょ?」

