義兄(あに)と悪魔と私

 
「どうして……閉めるの」
「邪魔が入ったら面倒だろ?」

比呂くんの声は冷たい。
基本的に彼が私に温かいことなどないが、機嫌が悪い時はそれが顕著だった。
そういう時は大抵、優しくない。

「私、戻らないと……」

それが叶わないであろうことは想像がついた。しかし、それは余計に比呂くんを刺激してしまったようだった。

「あいつと何してたの? 昼も夜も。話ってなんだよ」

比呂くんは逃げ道を塞ぐかのように、私がもたれ掛かる扉に手をつく。

「へ、変な言い方しないで! 別に何もないし。それに比呂くんには関係ないでしょ」
「へぇ。そういうこと言うんだ。奴隷のくせに生意気なんだよ」
「……っ!」
「旅行中は関係ないとでも思った? 残念。奴隷は奴隷。俺と君はそういう関係なんだから」

瞬間、自分でも意図せず手が出た。
乾いた音が倉庫に響いて、比呂くんは呆けたように私を見る。