義兄(あに)と悪魔と私

 
「やめろよ」

静かな声の主。それは麻実といるはずの比呂くんだった。

「別におれは……」
「そ? 円は嫌がってるみたいだけどな」

比呂くんは淡々としていたが、何故か有無を言わせぬ凄みがあった。
きっと機嫌が悪い。しかしその理由が私には分からなかった。
そもそも、ここに比呂くんが一人でいるはずがないのだ。

(今頃は麻実が告白して……それで……)

「昼間の時だって、本当は何してたんだか……」
「あのなぁ! おれは本当に北見と話してただけだ。今だって!」
「じゃあ、話はもう終わりでいいな」

私は状況が飲み込めないまま、二人の会話をただ眺めていた。

「待てよ。おれは比呂に話がある」
「残念だけど、俺にはないな。円、行くよ」