「父さん、俺バイトしたいんだけど……別にいーよね?」
母と有坂さんの言い合いにも、一言も発しなかった比呂くんの空気を読まない一言。
それは、その場の誰の耳にも予想外の言葉だった。
「……バイト? 小遣いが足りないのか?」
「うん。まぁ少し」
何に使うのだろう、と思った。私と違い裕福な家庭に育った比呂くんは、お金の使い方もスケールが違うのだろうか。
「バイトなんてする必要ないでしょう? そうね、もう少しお小遣いの金額を増やしたらどうかしら」
母がニッコリ笑って言ったが、比呂くんはゆっくり首を振る。
「そうじゃなくて……この際だから、自分の力でお金を稼いでみたいんだけど」
「そういうことなら、いいんじゃないか」
有坂さんはあっさりと賛成した。
このまま決定かと思いきや、母が口を出す。
「私はあまり賛成できないわ。心配だし……それに勉強時間がなくなるでしょう。部活も忙しいのに」
「大丈夫だよ。成績は絶対下げないって約束する」

