「そんな悠長な……来年は受験生なのよ? 比呂くんは学年一位だっていうのに……情けない」
「比呂と比べるな。円ちゃんには関係ないだろう」
有坂さんは優しく、母にも毅然とした態度で私を庇ってくれる。
誰かの父親だとは思えないほど、いい人だ。
私はチラリと比呂くんの方を見たが、彼は私達のことなどどこ吹く風で、ソファで雑誌を読んでいた。
「それにしたって悪すぎるわ。私は円の将来を思って言ってるの」
「お前は焦りすぎだ。まだ二年になったばかりじゃないか。皆が皆、一流大学を目指す訳じゃないんだよ」
「選択肢を広げておくことは悪いことじゃないでしょ」
いつの間にか、事態は二人の言い合いに発展しつつあった。
これ以上白熱する前に止めなければと思ったが、どうすればいいのか。
ただその場に立ち尽くす私を尻目に、その場の空気を変えたのは意外にも比呂くんだった。

