あれから、比呂くんとは何もない。
家族としての不自然でない最低限の接触。
学校では単なるクラスメイト。
「あの日」の話をすることもなく、まるで以前の平穏に戻ったかのようだった。
母は有坂さんに誠実で、比呂くんは優しい義理の兄。
もう少し時が過ぎれば、全てを忘れて前に進めるような気さえした。
しかし、束の間の安息は突然終わりを告げる。
「円、何なのこの成績は!」
家族四人の夕食の後、そっと置いておいた先日のテスト結果を見て、母が激怒した。
昔から、勉強には厳しい母だ。こうなることは想定の範囲内だったが、学費を出してもらっている手前、結果を隠すこともできない。
それに今は比呂くんがいるため、私だけ成績を隠すのはどう考えても賢明ではなかった。
「まぁまぁ、落ち着いて。そういうこともあるよ。ねぇ?」
リビングのソファでくつろいでいた有坂さんが、やんわりと母を止めに入る。

