義兄(あに)と悪魔と私

 
至極残念ではあったが、肯定も否定もせず、恥ずかしさから顔を背ける円はやっぱり可愛くて、それなりに満足はできた。

だから、今はまぁ……いいか。

「ねぇ円、キスしていい?」
「え……!?」

俺の言葉に、円は一瞬固まり、そして周りを見回した。
病院の駐車場は、それなりに人の出入りもあって、かつ玄関から丸見えだった。

あからさまに狼狽える円は、端から見ていると結構面白い。

「さすがに冗談だよ、帰ろっか」

そのまま見ているのもよかったけれど、あまりからかうのもかわいそうだったから。

キスの代わりに手を差し出すと、ホッとしたような円はためらいがちに手を伸ばす。

「帰ったら、いくらでもできるからね」

手と手が触れあう寸前、ピタリと動きを止めた柔らかで華奢なそれを、俺は少し強引に掴むとギュッと握りしめた。
  
バス停までの道を、二人手をつないで歩く。
こんな日が来るなんて、あの日は思いもしなかった。

人生って、何があるか分からない。
だから、この奇跡を何より大切にしたいと思う。

今、君が隣で笑ってくれるこの時を。