「大丈夫ですか?」
差し出された手を取ることもできず、私は固まった。
母の不倫相手の男だったからだ。
「えっと……あの、私……」
どもる私を男は不思議そうな顔で見た。
「こちらこそ、すみませんでした」
なんとか言って自分で立ち上がる。
その時、後ろから比呂くんの声が聞こえた。
「円、行くよ」
会計を済ませたらしい比呂くんが、何故か私に手を出してみせる。
私は返事をして反射的にその手を取り、比呂くんに引かれるまま店を出た。
手を繋いだまましばらく街を歩く。
そして店から少し離れたバス停の前で、比呂くんは立ち止まった。
「帰るの?」

