義兄(あに)と悪魔と私

 
どれくらいの時間が流れただろう。
不意に店の扉が開いた。

入ってきた客は四十歳代くらいの男で、その男は母に向かって軽く手を上げると、そのまま向かいの席についた。

「来た……!」

私は、自分の声が震えているのに気づいた。
無意識に、身体が前へと出る。

「落ち着けって」

比呂くんが身を乗り出した私の腕を掴み、少しだけ引き戻した。

「でも」
「顔なら写真でもよく見たろ」

そう言われて、前に比呂くんに二人の証拠写真を見せられたことを思い出す。
しかし写真の男の顔などとっくに忘れていた。あの時は動揺していて、ただ見知らぬ男だと思った。それだけだ。

(今度は覚えておかないと……)