クラスのメンバーをざっと見て、担任を見る。

そこに書かれていた名前が和田晄良。

初めて見る名前だし、最初なんて読むか分からなかった。珍しい名前だな、程度の認識。

動機はそれだけだ。

そして、入ってきた先生を見て、恋に落ちたのは言うまでも無く。

とにもかくにも不毛な恋をしている私は今年も先生が担任であることを祈るのみ!

「おはよう」

先生と2人で話をしていると、後ろから挨拶が聞こえた。

「あ。おはよー」

私は振り向いて挨拶を返す。

そこに居たのは、去年図書委員会で一緒になった、鮎原和輝だった。

愛称は和。

優しげな顔付きに、平均的な身長で、めがねを掛ける男子には珍しいおっとり系。

少し癖毛気味な髪型は普段に愛くるしいと思わせる笑顔を引き立てるような物があり、部類としては年上女子に愛でられる系男子だろう。

「お。和。日直?」

「あっ!私だ!!」

先生が和くんの持つ黒いかごを見てそう言った瞬間私は今日自分が日直であったことを思い出した。

今日は始業式だから、今年のクラス発表されるまで3学年の自分のクラスへ行かなければいけない。

日替わり当番制の物や、去年の委員会係の者は、次期委員が決まるまでその係の仕事をしなければならない。

うちの学校は当番を番号順に回していく。

だから、運悪く一個前の番号の子が終業式に日直で億劫になったのを思い出した。

女子の方が人数の多いうちのクラスは、番号順に回していくと、男子が足りないのでペアがどんどんずれていくのだ。

「ごめーん!」

日直が毎朝教室まで持って行かなければいけないかごは学級日誌やその日の朝学習用プリントから今日の課題。

そして親に見せる連絡事項の書かれた手紙の束が何個も入っていて重いのだ。

それをいくら相手は男子とは言え遅刻して人に押しつけてしまう形になるとは。

「いえいえ。別に良いんだ。その代わり日誌書いて?」

そう言ってニッコリ笑う彼は本気で神様並の心の広さだと思う。

と、思わず感心してしまうほどの優しい人なのだ。

私は和くんを好きだという人を2人ほど知っている。

その2人が和くんに惚れるのも無理は無い。

決して和くんに恋心を持つことが無いと断言できる私でさえそう思うのだから、余程和くんはすばらしい人間性を持つ人だと誰もが分かる。

私は1人そう納得すると、先生と別れて和くんと一緒に教室へ向かった。

「は~!朝から先生に会えるとは思わなかったよ~!」

「先生のこと好きなんだ?」

「うん!尊敬してるよ~良い先生じゃん?」

何となく続いた会話の中の『好きなんだ』に少し動揺したが、取り繕ったことはバレていないはずだ。

先生として尊敬してる。

その体で話さないと、いつバレるかひやひやする。

常に、"私は先生に恋愛感情はありません"と言うことを不自然で無い程度に言わないと、疑われてしまうのは面倒だ。

先生を好きだなんて普通はおかしく思われるから・・・。

誰かが言っていた。

『先生のこと好きなの?』

『え~?そんなわけ無いじゃん!だって相手は先生だよ~?』

『だよねぇ~』

私は・・・・おかしいらしい。

「藤園?大丈夫?」

私が考え込んでいるうちの教室に着いていたようで、和くんに顔をのぞき込まれる。

「大丈夫!チョット考え事しちゃっただけ!荷物おいてくるね!」

急いで教室に入り、その後に続いて入ってくる和くんを横目に一番奥の列の前から2番目の机へと急ぐ。

ここが私の席だ。

日当たりが良くて、授業中先生にばれないように先生を一番よく見れる場所。

席替えの時はくじだけど、自分のくじ運は最高だと思う。

前回の席は教卓の真ん前。

先生が話している姿や板書を書く姿が近くで見れる上に、授業中に話しかけてもらえる席。

本当は今回もあそこが良かったのだけれど、そう毎回毎回甘くは行かないようで、この席になってしまった。

荷物を適当に机に置くと、教卓にかごを載せ学級日誌を取り出す和くんの元へ駆け寄る。

「ごめんね」

「はい。日誌。俺黒板消すからさ」

「ラジャーです!」

私は差し出された日誌を受け取り、間に挟まれたSTの原稿を引き抜く。

日直はこれを読んで、朝の会という名のSTを流していく。

まぁ・・・殆どの人が聞いてないんだけど。

「"室長さん号令お願いします"」

書かれている原稿の一番最初を読み上げる。

室長とは、小学校の頃は学級委員長とも呼ばれていたようはクラスメートの長的な。

因みに、副委員長は副室長と呼ばれている。

うちのクラスの室長は和くん。

副室長は井上菜奈ちゃんと言う子。

朝の会が終わり、各自席に戻る。

すると、さっき渡り廊下で会った担任だった和田先生が教室へ入ってきた。