私たちは、上り電車のボックスシートに座った。
そこで、みんなと恋バナをしたり、クラスの話をしていた。
でも、先ほどのことがあって、素直に楽しめていなかった。
そのとき、紗矢香が「うわ、リア充むかつく」といった。
そして、横をみた。
それは、竹内たちだった。
二人の会話が聞こえてくる。
そして、わかったこと。
女性の名前は、愛美。
竹内は愛美さんのことをよぶときは、本当に愛おしそうな顔をしていた。
いつも意地悪い笑みを浮かべていた竹内からは想像もつかないような、本当に優しい笑顔だった。
ーーー彼が私にあんな笑顔を向けてくれたことはあっただろうか。
きっとあの女性よりも前から竹内のことを知っているのに…。
そのことがただ悔しくて、悔しくて、切なかった…。
そんなとき、竹内がこちらを向いた。
ーーあっ、長田。
きっと、竹内はそう言おうとしたのだろう。
しかし、その言葉は、自ら遮ってしまった。
「みんな。車両変えよう。」
そういって席を立った。
みんな、不思議そうな顔をしている。
そのとき、勘の良い香織が「そうしよっか。」といってくれた。
隣の車両に移る時も、私の目には涙がたまっていた。
ーーー彼女いるくせに話しかけてくんなよ…
ーーーやっと、気付いたのに
ーーーあえて嬉しいはずなのに
『茅ヶ崎、茅ヶ崎。ご乗車ありがとうございました。』
電車は茅ヶ崎についた。
バスに乗っても、私の涙は止まることを知らない。
もし、一緒にいたころに思いを伝えられていたのなら、こんなことはなかったのだろうか。
後悔ばかりが浮かんできて。
バス停に降り立つと、金木犀の香りが漂っていた。
それがまた、切なかった。
切なさと、後悔と、金木犀の香りが心の中に深く残った、10月のある帰り道だった。