洋輔と会ったあの日から、決心をした美優は、昼は社長秘書として、夜は学生としての二足の草鞋生活が始まった。
勿論、このことは美優と洋輔しか知らないこと。
日に日に帰宅時間が遅くなっていることに、両親が気が付かないわけもなく、不審に思い始めていた。
「ねぇ、美優。最近毎日帰りが遅いみたいだけど、何をしているの?」
「田中に聞いたら仕事は定時で帰ってるというじゃないか」
「えっと…」
「私たちには言えないことなの?」
「ううん。そうじゃないの。最近、習いごとを始めたの。黙っていてごめんなさい」
「そうだったの…」
「なら、何で黙っていたんだ?」
「特に理由はないの。ただ…まだ始めたばかりだし、ちゃんと起動に乗ってから話をしようと思ってたの」
「そう。美優が変なことに巻き込まれてないなら良いのよ。だけど…あんまり心配かけないでね?」
「ごめんなさい…」
美優は素直に謝った。
すると、それ以降両親は美優に何をしているのか追求するわけでもなく、そのまま話が終わってしまった。
美優は特に追求さらずホッと一安心したのと同時に、初めて両親に隠し事をしていることに、何だか心苦しくなっていたのであった。

