「先程の話の続きですが…」
「あぁ」
「長谷川社長はこのまま諦めるおつもりなんですか?私は経営者の立場ではないので、長谷川社長の苦労はわかりません。けど…父の姿なら覚えています」
「藤堂社長?」
「はい。私がまだ幼い頃、まだ会社が軌道に乗っていなかった頃、相当大変だったみたいなんです。それこそ、今の長谷川社長みたいな表情をしていたことも、幼かったながらに覚えています。でも、父は厳しい状況の中でも決して諦めることなく、秘書の田中さんと二人三脚で会社を大きくして行ったんです」
「へぇー…」
「母と結婚する時にも相当母方の家と揉めたようで、父は絶対に母を幸せにする、不幸になんてさせないって啖呵切って結婚にこぎつけたみたいなんです。その当時、母の実家でも、会社をやっていたみたいで、当時の父の会社よりも大きかったみたいなんです。だからおじいちゃんも母のことが心配だったようなんですが、結局は2人の根気に負けて結婚したんだって、母が教えてくれました」
「………」
「あ、すみません…。私ったらそんなに偉そうなこと言っちゃって…。私の話なんかご迷惑でしたよね?」
「いや、そんなことはない。俺も経営者という立場だし、当時の藤堂社長の気持ちや苦労も、君のお祖父さんの気持ちも分かる」
そう言った洋輔の表情は、先程よりも何かを考えているような表情をしていた。
そんな洋輔の表情を見た美優は、何だか申し訳ないような思いでいっぱいになっていた。

