「え?何か?」

「あのさ、ちなみに聞くけど、何で父親の会社に就職したわけ?」

「何でって…父に言われたからですけど…」

「…やりたいことや夢は無かったわけ?」

「そうですね…。今まで気にしたことがありませんでした」

「………君は自分の意思がないのか?」

「……進路の分岐点では必ず両親が導いてくれましたし、それに何の違和感もなく過ごしてきました。でも、それの何がいけないんですか?」

「いけないわけではない。ただ、もっと自分のやりたいこととかあっただろう?」

「いえ、そこまでやりたい何かが私にはありませんでしたから…」

「もし君は、父親が縁談を…と持って来たら、従うのか?」

「その時になってみないと何とも言えませんが、両親が太鼓判を押して勧めてくるなら、それも自分の運命だと受け入れると思います」

「……それは、つまらない人生だな…」

「なっ!見ず知らずの貴方にそんなこと言われたくありません」

「図星か?じゃなければ、そんなに怒らないか」








美優は男に言われた言葉に怒りを覚え、立ち上がった。









「どうした?」

「気分が悪いので失礼します」








そう言うと、美優はその場から離れてしまった。



立ち去る美優の後ろ姿に、男は獲物を捉えた獣のように、いつまでも見つめていた。




するとそこへ、スーツをかっちりと着こなす1人の男が現れた。