たった三文字。ただそれだけなのに

私の体が熱くなる。

「栞」

もう一度私を呼ぶ何日か以来の低い声。

「い..ちじょ...くん...」

私の目の前に立っていたのはあの日と

全く変わらない一条君だった。

隣で春香はびっくりしている。

新台君もそんなばかなという顔をして

一条君を眺める。

「栞今日は図書委員会の仕事ある?」

そういって笑顔を浮かべる。

「今日は....なにもないけど...」

「そっか。」

長いまつげを伏せる。

その仕草でさえも私の心を急かす。

何この気持ち。そわそわして落ち着か

ない。

「実はこの前寝てた場所がすごい気に入

っちゃって。先生にきいたら図書委員が

同伴なら使ってもいいって言われたから

栞どうかなと思ったんだ」

ダメだと分かったからか、ごめんねと

言って帰って行こうとする一条君。

やだ、せっかく話せたのになんて柄にも

ないことが頭をよぎる。

「まって。別にいいけど。」

私は淡々と答える。

「時間まで読みたい本もあるし、監視

くらい、やってもいいよ。」

何をこんなに必死になっているんだろう

今度仕事がある時に一緒にいけばいいだ

けなのに。

一条君は少し立ち止まると、

「ありがとう。」

そう言って笑った。