おかしい。
どれだけ走っても雲屋に追いつけない。
それどころか、
どんどん離されていくようにも思える。

僕は一抹の不安を抱え始めた。


「く、雲屋さーん!!
 何処まで行くんですかぁ!!」


返事は、無い。
丘を超え、その先は海だ。
其処までいくと流石に追いかけることすら出来なくなる。
不安の中に、諦めが浮かびはじめた時、

―クルリ、と。

船は旋回し、今度は街の方へと走り出す。
肩で息をする僕を背から追い越し、気づけば、目の前を雲をはきながら走っていた。
もう、迷ってなどいられない。
僕の足は駆け、一直線に≪投屋≫へと進んだ。


「おっちゃん、仕事だよ!」

「あん?なんだ、何を飛ばして欲しい?」

「僕、いや、俺だ!!」


・・・


「は?」

「俺を、雲屋まで飛ばしてくれ、頼む!」


投屋の口から煙草がズレ落ちる。
考え込みながら、投屋は足元で煙草を踏み潰し、


「アート、ちょっと話を聞け。」

「何?俺急いでるんだけど。」


煙草の消えた口から言葉は流れ出す。




「雲屋になっちまったら、
お前もう此処には戻って来れなくなるぞ。」




足元の煙草から雲のような煙がモクモクと
延々と流れ続けていた。