精神の崩壊まで対した時間はかからなかった。

恐怖する恐怖を知った時にはもうすべてを失っていた。

「どうしたの?大丈夫?」

「ああ。うん。」

虚ろな目にはもう彼女を映っていない。

「なぁ、あんた誰だ?」

「…え?何いってるの?私だよ…?」

「だから誰だよ!消えろ!」

「え?どうしたのよ…」
男は思い切り彼女の頬を殴った。

何が何なのかわからず彼女は逃げ出した。

一人きりになった男は、更に自分を見失った。

アレ?俺は何してた?
彼女を殴ってしまったような?

アレ?ナグッタッケ?

誰かが迎えに来ているような。

アレ…?

彼女と喧嘩したっけ?

アレ……ア……レ?

スピーカーの音が聞こえる。嘲笑う声がする。

ひび割れた声がこういった。

「早く死ねよ。俺とおなじように。」

……………


―おわり―