タヤマくんの唇がまた私の唇に重なって、私は目を閉じた。閉じたけど、ケイタの顔が浮かんできた。ケイタと最後にキスしたのはいつだろう。もう覚えてない。
ケイタは他の女とキスしてるのかな。こうやって、他の女と。
タヤマくんの手が、私のブラウスのボタンを外す。
ケイタも、誰かのブラウスのボタンを外すのかな。
なんで? なんでケイタのことしか考えないの? もう終わってるのに。私達は、もう終わってるのに。
「タヤマくん、ごめん」
タヤマくんは、ゆっくり私から離れて、ブラウスのボタンを留めてくれた。
「送ります」
会社にいる時みたいに、タヤマくんはクールに運転して、クールに私を家まで送ってくれた。
「おつかれさまでした」
クールにそういって、タヤマくんの車は帰っていった。
当たり前だけど、リビングには誰もいなくて、真っ暗で、寒くて、私はフロアランプだけをつけてエアコンをつけた。気温は十二度。時間は零時三十分。なんとなく眠りたくなくて、ソファに座ってテレビをつけた。
ぼーっとテレビを眺めていたら、夫がリビングへ入ってきた。
「遅かったな」
「うん」
どうやら水を取りに来たみたい。からっぽの冷蔵庫を見て、面倒そう言った。
「水、ない」
「そう、買っとく」
部屋に戻るのかと思ったら、ソファに座ったので、びっくりした。
「マスミ」
「何?」
「離婚しようか」
突然……でも、その言葉、もう何年も待ってた。やっと……言ってくれたね。
「うん」
「悪かった」
「え?」
「金で、幸せにできると思ってた。だってお前は、俺の金に惚れてたから」
そんな……
「だから俺も、お前の容姿を変えようと思った」
「変えたよ。ケイタの好きな女になるように」
「花火に誘ったこと、覚えてるか」
「隅田川?」
「そう」
「未だに、なんで私が誘われたのかわかんない」
「好きだったから」
何言ってるの? あの頃の私は、田舎臭い、地味で、貧乏丸出しの女だったよ?
「でもお前は、俺の金しか見てくれなかった。それでも、よかったんだよ。お前を手に入れられるなら」
そんなこと……今更言わないで……なんで今更……
「イケてる女になれっていったじゃん」
「悔しかったんだよ。ガキだったのかな。それが、お前を追い詰めてたこと、全然気づかなかった」
もう、やめて……それ以上聞きたくない……
「妊娠も、嘘だってわかってたよ。でも、もしかしたらホントかもって、そう思った。だから、流産したって言われたとき、ああ、やっぱりって……やっぱり、お前は、金なんだなって……」
あの時の涙は……そういう意味だったんだ……本当に、傷つけたんだね、私。本当に、バカだった。もう、死にたい。ごめんなさい、ケイタ。
「慰謝料は払うから。これからの生活費も援助する」
夫は私の顔を見ることなくそう言って、背中を向けた。そう、慰謝料も生活費ももらえるんだ。よかったじゃない、私。これで自由になれるし、お金だって安心。何年もそれを望んでいたのよ。いたはずなのに……全然嬉しくない。どうして? どうしてなの? ねえ、どうして?
「お前がここに住めばいいよ。俺の荷物はそのうち業者に取りに来させる」
「……ここを、出ていくの?」
「明日から、ホテルに泊まる」
ねえ、どこに行くの? 他の人のところに行くの? 私を一人にするの? 本当に一人にするの? いや、ケイタ……ねえ、私……一緒にいたいの。
「待って」
リビングのドアを開けたケイタが立ち止まった。
ケイタは他の女とキスしてるのかな。こうやって、他の女と。
タヤマくんの手が、私のブラウスのボタンを外す。
ケイタも、誰かのブラウスのボタンを外すのかな。
なんで? なんでケイタのことしか考えないの? もう終わってるのに。私達は、もう終わってるのに。
「タヤマくん、ごめん」
タヤマくんは、ゆっくり私から離れて、ブラウスのボタンを留めてくれた。
「送ります」
会社にいる時みたいに、タヤマくんはクールに運転して、クールに私を家まで送ってくれた。
「おつかれさまでした」
クールにそういって、タヤマくんの車は帰っていった。
当たり前だけど、リビングには誰もいなくて、真っ暗で、寒くて、私はフロアランプだけをつけてエアコンをつけた。気温は十二度。時間は零時三十分。なんとなく眠りたくなくて、ソファに座ってテレビをつけた。
ぼーっとテレビを眺めていたら、夫がリビングへ入ってきた。
「遅かったな」
「うん」
どうやら水を取りに来たみたい。からっぽの冷蔵庫を見て、面倒そう言った。
「水、ない」
「そう、買っとく」
部屋に戻るのかと思ったら、ソファに座ったので、びっくりした。
「マスミ」
「何?」
「離婚しようか」
突然……でも、その言葉、もう何年も待ってた。やっと……言ってくれたね。
「うん」
「悪かった」
「え?」
「金で、幸せにできると思ってた。だってお前は、俺の金に惚れてたから」
そんな……
「だから俺も、お前の容姿を変えようと思った」
「変えたよ。ケイタの好きな女になるように」
「花火に誘ったこと、覚えてるか」
「隅田川?」
「そう」
「未だに、なんで私が誘われたのかわかんない」
「好きだったから」
何言ってるの? あの頃の私は、田舎臭い、地味で、貧乏丸出しの女だったよ?
「でもお前は、俺の金しか見てくれなかった。それでも、よかったんだよ。お前を手に入れられるなら」
そんなこと……今更言わないで……なんで今更……
「イケてる女になれっていったじゃん」
「悔しかったんだよ。ガキだったのかな。それが、お前を追い詰めてたこと、全然気づかなかった」
もう、やめて……それ以上聞きたくない……
「妊娠も、嘘だってわかってたよ。でも、もしかしたらホントかもって、そう思った。だから、流産したって言われたとき、ああ、やっぱりって……やっぱり、お前は、金なんだなって……」
あの時の涙は……そういう意味だったんだ……本当に、傷つけたんだね、私。本当に、バカだった。もう、死にたい。ごめんなさい、ケイタ。
「慰謝料は払うから。これからの生活費も援助する」
夫は私の顔を見ることなくそう言って、背中を向けた。そう、慰謝料も生活費ももらえるんだ。よかったじゃない、私。これで自由になれるし、お金だって安心。何年もそれを望んでいたのよ。いたはずなのに……全然嬉しくない。どうして? どうしてなの? ねえ、どうして?
「お前がここに住めばいいよ。俺の荷物はそのうち業者に取りに来させる」
「……ここを、出ていくの?」
「明日から、ホテルに泊まる」
ねえ、どこに行くの? 他の人のところに行くの? 私を一人にするの? 本当に一人にするの? いや、ケイタ……ねえ、私……一緒にいたいの。
「待って」
リビングのドアを開けたケイタが立ち止まった。
