「ただいま!!!!」
ドアを破壊する勢いで思いっきり開け、家に入る。

「あ、樹琴ちゃんお帰りぃー」
嫌味っぽい顔でそう言う父さんの顔に、こんなこともあろうかと買っておいたものを思いっきり投げつけた。

「ぶっ!?うわぁぁあああああ!!?何これくっさ!!まっず!!うえええぇぇぇええおぇぇええええ!!!」
どうやら顔にぶっかかっただけじゃなけでなく、口にも入ったらしかった。
くっそざまぁ。

「何って、そりゃ見れば分かるでしょ?“可愛らしい野イチゴの香り!スライム☆”っていう商品だよ。スライムだよ。」
「だよじゃないよ!!うぇえええ!気持ち悪……」
やだ汚い。

「お前ら私にお金も持たせないで、買い物に送り出しやがって、ウニとイクラとホタテと以下略自腹だぞ?おい、自腹だぞ?」
スライムを両手に構えて言うと、ようやく落ち着いたらしい父さんが降参のポーズをとった。

「ご、ごめんなさい!2倍にして返すんで、もうスライムはやめて!」
えー、あと6つぐらい買ってきたのにー。まぁ今回だけは許してやらなくもないことはない。

「全くさぁ、魚屋さんがよそ者帰れ!!って言って絡んでくるし、めっちゃ怖かったんだけど!!」
荷物を冷蔵庫にしまいながら叫ぶと、台所にいる母さんがくすくすと笑った。

「あらまぁ、なら私がその人の顔面にスライム当てに行こうかしら?」
「ストップだよマミー。」
いきなり笑顔で言い出すもんだから焦った。この母親ならやりかねん。

「まぁ何かすごい毒舌な人に助けてもらったからいいんだけどさ。」
私が呟くと、母さんはモロに反応した。

「あら!その子の話、さっき聞いたわぁ!ご近所さんでも評判なのよ!なんでも弱い者いじめが大嫌いな2人組?って言うらしくって、しかも生徒会で、成績もよくて、顔も綺麗っていうの!もうご近所さんの注目の的よ!」
興奮したように言う母さんの横で、私も呟いた。

「あー…確かにイケメンだった。」
どっかで見たことあると思ったら、あのモテ男君2人の内の1人だったのか。どうりで。

「そうなの!見てみたいわぁ~」
乙女のように顔を赤らめながら言うお母さんに、スライムまみれになりながら微妙な表情を見せる父さん。
あんたもイケメンだけど、常に若いイケメンが勝つんだよ。と私は心の中で爆笑した。