「君が代という曲はな、世界で最も短い国歌なんだ!だがその短い曲に含まれる意味というのが、また儚く美しく素晴らしいものであり以下略」
音楽担当の佐藤先生は、国歌の素晴らしさについて熱弁していた。
この長さ、西原先生に匹敵するぞ。
しかも、佐藤先生も地味にイケメンだなおい。

「今日は教科書始めだから、まず国歌をするっていうこの学校の決まりらしいよ。災難だね、君も。話長いぞ、これは。」
音楽が始まる直前の、青葉くんの引きつったような声が嫌に脳裏に張り付いていた。
そして堂々と小説を開いている青葉くんを見ていて、むしろ清々しい。
しかも読んでる本、銀河英雄伝説だし。長編にもほどがありすぎるだろ。

「じゃあこの歌、即興で歌えるやついないかー?」

「先生!俺メロディあんま覚えてないから歌ってくださぁーい!!」
「先生が歌ったら、俺ら二人で歌いまぁーす!!」
同じクラスの吹雪くんと鈴鹿くんが手を上げて言った。
前の授業からこの二人はノリがよく、色んな先生に気に入られていたけど…
他のクラスメイトは「おぉー!!」とか「やれやれぇー!!」と盛り上がる。
青葉くんは本から顔を上げてニヤつき、永尾くんは寝てた。
清々しいな、この二人。

「あぁ、俺か?いいだろう!歌ってやる!」
佐藤先生はCDをかけて、歌い出した。

「きーみぃーがぁ~よぉーをぅーわぁ!!!」
私は思わず、全力で耳をふさいだ。
私の脳裏には、ある一人の人物が浮かんでいた。

「ーッジャイ、アン…。」
というか音楽の先生なのに、歌下手すぎだろ!!!と思っていると、後ろから永尾くんが、

「…佐藤先生は音楽担当だけど、はっきり言って器楽専門だから、歌とかは専門外なんだよ。」
と教えてくれた。それにしても、これはひどい。

「ぶっwwふっ、あっははははwww」
「せっせんせっwww音痴www」
笑い転げるクラスのみんなに、佐藤先生はイラッとしたように言った。

「なら!あいつらが歌ってからどっちが音痴なのかって決めろよな!」
子供のようなことを言う佐藤先生に、二人は不敵な顔で笑った。

「おっけーおっけー!」
二人の表情は余裕そうで、あからさまに舐めていた。
まさか、この二人も音痴じゃないよね?
と、私は静かに耳のそばに手を置いた。