結論を言うと、青葉くんは特に何も言ってくれなかった。

「え?りょうちゃん?俺のこと?誰かと勘違いしてるんじゃない??」



私とりょうちゃんは、同じ地域に住んでいて、小さい頃からいつも二人で遊んでいた。いわゆる幼馴染みってやつだった。
夏休みも冬休みもいつも2人で駆け回っていたことを、私は鮮明に覚えている。
毎日、二人で大人にいたずらをして逃げ回っていたり、子供を狙って回る不審者を私は空手技で、りょうちゃんは剣道で倒して捕まえて、警察に持っていったら表彰されたことだってあるし、一番印象に残っているのは山奥まで探検をして人間が見てはいけないようなものを見てしまったことだ。
あれはさすがにもう見たくない。トラウマだ。

それが小4の冬、突然父さんの転勤で神奈川に引っ越すことになってしまった。
それっきりだ。りょうちゃんと音信不通になってしまったこと。でも、私はいつか出会えると信じていた。

そしてこの北海道への引っ越しだ。りょうちゃんと私が昔住んでいたのは、この北海道の片田舎だったから、もしかしたら、とは思ったんだけど…


「……うん…!やっぱりごめん!私の思い違いだったみたい…!!」
やっぱりそうだ!!!というかその前に、りょうちゃんがこんなに大きくなって、イケメンになってるとかありえないしね!!!!!なんだ!!!超恥ずかしいんですけど!!!!

「……じゃあ話も終わったし、二人の間にいると色々迷惑だから、先音楽室行ってるね!」

一人で顔を真っ赤にしてうつむいて、音楽室に向かって走った私の耳には、青葉くんが放った言葉は届かなかった。

『樹琴……。』