呪いの着メロ

「それって、どういうことだよ?」

 肝心なところで言葉を止めてしまった霧谷に俺は詰め寄る。

「簡単なこと。音楽に必要なのは耳、本を読むのに必要なのは目」

「おい、まさか・・・・・・」

 嫌な汗が出てきた。寒気もしてくる。

 コクンと霧谷が頷いた。

「だから、『片目の少女』ってタイトルなのかぁ・・・・・・あ、でも待って。片目だけでも、本は読めなくない?」

 康介が俺も思っていた疑問を口にする。

「この物語はその女の子が出会った転校生が書いたもの。転校生が最後に見たのは片目だけ眼帯をしていたその女の子の姿。だから、最初、転校生は女の子が片目だけが見えなくなったと思った。女の子もそう思わせていた。でも、実は女の子はすでに全盲になっていたの。それでも女の子は転校生にだけはそれを悟られまいと、傷が目立った片目だけを眼帯で覆っていたの」

 健気なことだ。

「音と匂いだけで日常生活は見える状態と変わらないようにすることはできたけど、転校生が新作の小説を書いた時、その内容と女の子の感想の食い違いから、女の子が全盲だって気づいたの」

 ボロが出ちまったわけだ。

「そして、その後、女の子は自殺した。果たせない想いを残したまま・・・・・・やり切れない恨みを抱いたまま・・・・・・」

 霧谷の口調は、どこか自分を重ねているようだった。同じ眼帯をはめているだけに、感情移入していたのか?

「その恨みがある日、襲い掛かったの。両親のクラシック音楽のナイトコンサート、リハーサルの日。午前零時を回ったとき、突然、聞いたこともないメロディがスピーカーから流れてきたの」

「それって、もしかして・・・・・・」

 康介の顔が青い。

「そう、女の子が作曲した曲。それを聞いた女の子の両親は女の子と同じ目に遭った。目が見えなくなり、日夜女の子の亡霊に苛まれ、最後は自ら命を絶った」

 もしかして、大変なことって、それか?