「伊織!起きなさい!!」
夏休みも終わりに差し掛かった頃、珍しく母親に起こされた。時計を見ると午前の六時前。
――なんなんだ、こんな朝早くに・・・。と思ったが、口には出さない。母親と口をききたくなかった。
「伊織、今日から勉強合宿ね、早く着替えてリビングまで行きましょう」
母親の言葉を聞いて俺は愕然とした。勉強合宿だって!?
二度寝をしてやり過ごそうと試みたが、母親が有無を言わさずに睨み付けている。
「着替えるんだから出て行ってよ」
と抵抗し,チャンスをうかがってみたが、
「親子なんだから構わないでしょう、さっさと着替えてちょうだい」
と言われ、チャンスを粉砕されてしまった。ご丁寧に今日着る服まで用意してある。なんという気合いの入れようだ。だらだらと着替えて時間を稼ごうとしたが、引き延ばすのにも限界がある。大した時間をかけないまま着替え終わってしまった。

母と共にリビングに向かうと、これまた珍しく父もいた。父はいつも朝早くに出かけて行き、帰ってくるのも深夜なので、父の姿を見るのは久々だった。
「おはよう、ひさしぶり」
とりあえず、声をかけた。
「ああ、おはよう」
淡々とした声が返ってきた.父はザ・エリートビジネスマンといったお堅い人物で、俺が入学して寮に入る前も会話はほとんど勉強のことばかり。テストの答案を見ては嫌味を言われた。俺はこの人が苦手だ。軽いトラウマにもなっている。
「はやく朝ご飯食べっちゃってよ、あまり時間がないんだから」
母親の声がしたので食卓の方を向くと、菓子パンとペットボトルに入った飲み物がいくつか置かれていた。一つ目の菓子パンを食べ終わったところで
「残りは車の中で食べなさい」
と母親に言われた。いつの間にか用意されていた荷物とパンを持ち、母の運転する車に乗り込み、勉強合宿への集合場所へ向かった。そこから母と別れ、勉強合宿を主催した予備校の貸し切りバスに乗り、合宿施設に向かった。