俺はその日から、毎日オギワラの家に通うようになった。彼女の寂しさに触れてから朝になると自然に彼女の家へと足が動いた。だけど、今日から大きく変わった事がある。とうとう自宅に帰る日が来た俺は昨日自宅に帰った。実は自宅と学校はそれほど離れていない。全寮制の学校でなければ毎日通うのも苦にならない距離だ。そんなわけで俺は電車に乗り、オギワラの家に向かった。

俺が朝、目を覚ますと、両親はすでに出かけていた。まだ、中学入学に前の休日のように食卓に千円札が2枚置かれていた。

 俺の親は俺に大した関心を持っていない。俺の親は俺を老後の保険ぐらいにしか思っていない。そもそもなぜあの人たちが結婚したのか俺には理解できなかった。あの人たちが愛し合っているとは到底思えなかった。――そんな二人の間に生まれた俺。俺が全寮制の貴清学園に入学したのも、俺の面倒を見なくて済むから。

貴清学園を受験した小6の頃は、そんな両親のことを疑いもしなかった。「勉強頑張れ」って励ましてくれたり、学校のテストや模擬テストで良い成績をとったら「頑張ったね」って褒めてくれたから。あの頃は、それが上辺だけだって疑いもしなかった。だけどある時、褒めてくれるの親の瞳をよく見ると笑っていなかった。ちっとも暖かさを感じなかった。たまたま、その時だけかと思ったが、その後もずっと母親と父親の瞳は冷たいままだった。

何の因果かそのことに気付いたのは、貴清学園の合格通知が届いた時だった。合格通知が届いた日、父も母も喜んでいた。「頑張ったね、よくやったね」って。けれど、ふと親たちの冷めきった眼を見てしまい、その瞬間悟ってしまった。この人たちは俺を想って勉強させていたわけじゃない・・・。俺にはこの人たちから愛情が向けられていないんだ。そう、悟ってしまった。

それから俺はふてくされて、あいつの思い通りになるもんかと授業をサボり、問題児になろうとしていた。復讐のために、自分の未来をかなぐり捨てて――。オギワラに出会ったのはそんな時期だった。いや、そんな時期だった。いや、彼女と出会えたからこそ、そんな時期なのかもしれない。毎日彼女と会い、暖かさと優しさと「家庭」を感じて、なんとなく心の隙間が埋まっていく、そんな気がした。彼女と会う度、芽生えるピースが色を増し、気持ちが出来上がる。彼女の輝く笑顔に照らされて・・・。夏休み中はほぼ毎日、彼女の家に通って、彼女と過ごした。いつしか、オギワラと過ごす日々は何物にも代えがたい、俺の中で物凄く大切なものになっていた。