「さて、新店もオープンして俺の手を離れたことだし。通常業務に戻るとするか。本社へ戻るなら送って行くぞ」

郊外店特有の、だだっ広い駐車場に止められた車を見たあとに私を見る河野。
思わず、あの夜車内でしたキスが脳裏に浮んで戸惑ってしまう。

「警戒してんのか?」

イタズラに口角を上げて見せる河野は、車のキーをスーツのポケットから取り出してのんきな表情を見せている。

「警戒って」

思わず言い返す私の態度は、解り易過ぎるんだろう。
俯いて笑いを堪える河野の態度が憎らしい。
上目線のような態度は、なめられている気がしてならない。

「昼間っから襲ったりしねぇよ」

余裕綽々といった態度の河野は、車のキーをブラブラさせて、サッサと車の方へ歩いていく。

「ちょっと待ってよ」

結局、時間をかけて電車で帰る面倒を天秤にかけ、襲ったりしないという河野の言葉を信じることにした。

というか。
昼間じゃなかったら、また襲うの?

そんな疑問が一瞬浮んだけれど、口にするのはやめておいた。

助手席に乗り込むと、河野の車が本社へ向かって走り出す。
あの夜のように急発進することもなく、運転はおとなしいほどだった。