アルコール臭も抜けてきた夕方。
残業も早々に切り上げて、木下店長の店に顔を出すことにした。
乾君の様子見だ。

本社勤務の返事は待って欲しい、なんていっていたけれど、今日お店に出てみたらやっぱり店長の方がいい、なんて思っている気がしてならなかったんだ。
もしくは、河野の強引な勧誘が嫌で、出社さえしていない。なんて心配もあった。
最近の打たれ弱い新人の傾向としては、なくはない話だ。
でも、木下店長からは何の連絡もないし、ちゃんと出勤してきているとは思うんだけれどね。

少しの不安を胸に、カツカツとヒールを鳴らして店舗へ向かう。
差し入れに、途中でコーヒーショップのフラペチーノを店舗の人数分買った。

「お疲れさまー」

レジに居た木下店長に声をかけると、また碓氷か。という露骨な顔をされたので、フラペチーノの入っている袋を目線に掲げるとあからさまに表情を明るくする。

「よく来たなー、碓氷。仕事上がりで疲れてるだろ? バックヤードで休んで行けよ」

わかりやすいから。

「手土産で、ここまで歓迎されるとは思わなかったよ」
「なんのことだ」

呆れながら笑う私に、あえてすっとぼけた顔をしてみせる。
解り易い口調で解り易くいわれると、笑ってしまって怒る気にもならない。

「では、遠慮なく。あ、ところで、乾君て、来てるよね?」
「ああ。バックヤードで作業してるぞ」

そこそこの客の入りを見て、店舗内をチェックしながらフラペチーノ片手にバックヤードへ向かった。
軽くノックをしてからドアを開けると、乾君は椅子に座って商品の発注作業をしているところだった。

「お疲れさまー」
「あ、碓氷さんっ」

私の姿に、驚いたようにして慌てて立ち上がる。

だから、警戒し過ぎだってば。