「何考えてるの?」

仕事帰り、聡太と一緒に自宅近くのダイニングで食事をしていた。
創作料理の並ぶテーブルで、いつの間にか私はぼんやりしていたらしい。

「さっきから、箸が進んでないよ。美味しくない?」

屈託なく訊ねる瞳。
私を想ってくれる瞳。

「ううん。美味しいよ」

私は、慌てて首を振る。

河野に指輪を貰ってから、社内で顔を合わせることはあまりなかった。
それは、偶然なのか。
それとも、河野が敢えてそうしているのか……。

後者だとしたら、河野のことだから、はっきりと答を出せない私に気を遣ってくれているのかもしれない。

そのせいか、社内で聡太が嫉妬心を出すこともなくなって、以前のように冷静で穏やかになっていた。

「何か、あった?」

未だぼんやりとしてしまう私に、目の前の聡太が首をかしげる。
何もないよ、というように笑って見せると少しだけ困ったような切ない顔をした。

「沙穂は、嘘が下手だね」
「え?」
「なんでもない。デザートでも食べる?」

サラリと言葉をかわし、聡太がメニューを手にする。

聡太が選んでくれたアイスクリームはシンプルな物だったけれど、とても甘くて一口だけで十分になってしまった。
そんな甘すぎるアイスクリームの溶けていくさまを、私はまたぼんやりと眺めていた。