「少しはすっきりした?」
頬杖をついて訊ねると、苦笑いを浮かべている。
「これでまたしばらく頑張れるよ。サンキュ」
「どういたしまして」
にこりと笑みを返すと、河野の顔が少し引き締まる。
「今日は、碓氷にもうひとつ用件があるんだよ」
「なーにー? これ以上の面倒ごとは、ごめんだからねぇ」
「そう言うなよ」
河野は、傍らに脱ぎ置いてあったスーツのポケットをなにやらもぞもぞと探り始めた。
煙草でも探しているのかと思いきや、目の前に差し出された煙草とは違う四角いケースに私は息を呑む。
「ちょっと、待って」
私は、胸に手をあて、河野がテーブルに置いた箱から僅かに身を離した。
だって、少し待つって言っていたのに。
ううん。
そういう問題じゃないよね。
私が今聡太と付き合ってるのは解ってるはずじゃない。
なのに、どういうつもり?
そんな表情を向けると、スーッと息を吸い吐き出した。
それは、気持ちを落ち着けようとしているみたいにみえる。
「乾との事は、理解している」
「じゃあ、どうして」
当然の質問に、何かを決めたように一つ頷く河野。
「本当は、まだ渡すつもりはなかったんだ」
そこで一旦言葉を区切り、テーブルの上で両手を組んだ。
「今日、廊下で会ったろ? あれ、また乾に呼ばれたんだよな?」
訊かれて、曖昧ながらも頷いた。
「覚えてるか? 俺が前に言ったこと」
私は何のことを言っているのかわからなくて、首をかしげる。
「恋愛に没頭しすぎると、公私混同するのが若さって言う話」
言われて、あっと思い出す。
新店近くのファミレスで、河野が私にしたプロポーズは本気だと、改めて言ってくれた時のことだ。
暴走してしまうんじゃないかって、河野は乾君の若さを懸念していた。
だけど、あの時の私は、彼が冷静でいられなくなる姿なんてこれっぽっちも想像できなくて、そんなことあるわけないなんて笑っていたんだ。
なのに、今では、河野が言ったとおりになっていた。
河野といる私を見つけては、何かと気を引こうとする聡太。
今日の昼間には、とうとう冷静さを欠いてしまった。
あんな風に、自分の気持ちを爆発させて、強引に――――。



