昨日河野と打合せをした件で、社長に書類を提出したところ。
直ぐに改善に取り掛かるように、との指令が下った。

おかげで、新店がないというのに、忙しさは然程変わらないのは気のせいじゃないはず。
チェック項目のついた書類を手に、店舗まわりの開始だ。

河野と連れ立って、玄関へ向かおうとしていると、乾君が駆け寄ってきた。

「碓氷さん」
「おうっ。また乾か。今度はなんだ?」

私の代わりに河野がイタズラに口角を上げて応えてしまった。

その河野を一瞥する聡太。
二人の視線がぶつかり合っている。
空気が、重い。

どうしたのかを訊ねようと私が口を開きかけると、河野がそれを遮った。

「乾。悪いが、俺たち急いでるんだ。インクなら後にしてくれ。あと、私用なら就業時間外だ」

切り捨てるようにばっさりと言った河野を、聡太がじっと見ている。
その唇はきゅっと結ばれていた。

「行くぞ、碓氷」
「う、うん」

聡太に後ろ髪を引かれながらも、ごめんね。と小さく声をかけて、私は河野の後についていった。

その後の数日間。
聡太は、私が河野と一緒にいるところを見るにつけ、声をかけてくるようになった。

その中には、スタッフとの関係で相談してくるという真面目な内容のものもあったけれど、ほとんどが特に急ぎの用事ではなかった。
おかげで河野の機嫌も悪くなり、悪循環が続く。

聡太に声をかけられる度に、いい加減にしろ! といつか河野が怒りだすじゃないかと、日々ハラハラしてしまう。

就業時間中だというのも構わず、聡太からこんな風に社内で振舞われることに、私は戸惑いを感じていた。