「ところで、乾」

河野がさっきまでのふざけた顔を正し、乾君に真面目に話しかけた。
そんな河野の雰囲気を悟ったのか、乾君も真面目な顔つきになる。

「お前さ、今でも店長やりたいと思ってるか?」

河野の質問に、乾君が即答する。

「もちろんです。音楽や本が好きだから、この世界を選んだんです」

きっぱりと宣言する姿を見て、面接の時の彼を思い出した。
あの時も、こちら側のした同じような質問に、彼は真っ直ぐと誠実に応えていたっけ。
そして、話す言葉から、どれだけうちの扱っている商品が好きなのかが伝わってきたんだ。

「そうか。ただな、世界は広いぞ」

河野の言葉に、乾君は僅かに首を捻る。

「本社のPOPに、近々空きが出る。実のところ、あそこの部署は結構人気があって、今でも入りたいといってくる奴が社員もアルバイトもうようよしている」

河野はそこで一度言葉を区切り、探るようにして黙って聞いている乾君の表情を見た。

「だが、人には才能ってもんがあるんだよ。やりたいだけじゃ、仕事にはならない。でだな。乾、お前、POPに入らないか?」
「えっ?!」

突拍子もない誘いに、目を丸くする乾君。

当然だよね。
言葉が足りなすぎるよ。

「河野、ちゃんと説明してあげなさいよ。色々すっ飛ばしすぎて、解りにくいじゃないのよ」
「そうか? 単刀直入で、かなり解り易いと思うが」