「足、崩してね」

正座をしてメニューを見ている乾君が可笑しくて、思わず苦笑い。

「じゃあ、遠慮なく」

私の言葉に正座をやめて、堀に足を入れた。

届いたビールで乾杯をしたあとは、河野が好き勝手にまた私をいじり、好き勝手に並ぶ料理を食べまくる。
そして、いじられる私を見て乾君が笑う、という図が出来上がってしまった。

「こいつ。入社してきた頃なんて、ちょー初かったのに、今じゃこれだよ。年月っていうのは、人をこんな風に変えるんだよなぁ」
「ちょっとー。失礼なことをシミジミ言いながら、乾君に吹き込まないでよ。だいたい、入社した時から図太かったら、可愛げも何もないじゃないのよ」
「何がお前をそんな風にさせてしまったんだ。俺は嘆かわしいよ」

なぁ、乾。と肩を抱かれて同意を求められると、とても困った顔をしている。

「乾君。そこは、図太くないです。くらい言ってフォローしてよね」
「あ、そうですよね。すみません」
「こいつ、マジで謝ってるよ」

河野は乾君の素直な態度がどうにもツボに入ったらしく、ゲラゲラと笑っている。
そうやって、いつの間にか酒の肴にされている私。

もうっ。

「だけどな、碓氷の仕事は完璧だよ。女なのに、なんて言ったら睨まれるだろうけど」

乾君に話しながら、チラリと私の方を見る。
私はといえば、滅多に口にすることのない褒め言葉には絶対に裏があるはず、と判りやすいくらいに河野のことを睨みつけていた。

「な。恐いだろ」

そう言ってまたゲラゲラ。

「けど、マジで。こいつがいてくれるおかげで、会社もまともに廻ってるんだよ。乾も感謝しておけよ」
「はい」
「なんか。落とされて、上げられて。どっちかにしてくれないと、対処の仕様がないわ」

呆れながら、ビールをゴクリ。

「あー、美味しい」
「ああ、そうそう。かなりの酒好きだから。何か困ったことがあったら、酒さえ与えておけば何とかなるぞ」
「ちょっとー。私ってば一体どんなキャラなのよっ」

ふくれっつらで、ビールを飲み干し、もう一杯注文。
確かに、よく飲むけどね。