躊躇いと戸惑いの中で



眉間に寄っているといわれた皺を気にしながら自席に着くと、携帯が鳴った。
見ると、乾君からのメッセージだった。

【 おはようございます。お昼、一緒しませんか? 】

出社して直ぐに送ってきたのかな。
社内では、まだ彼の姿を見かけていない。

にしても、おはようって、今日二回目の挨拶だよ。

なんて心の中の突っ込みにクスリと笑って頬を緩めていると、経理の田山さんが私の前で足を止めていた。
その気配に気がついて顔を上げると、ニヤニヤとした顔で見ている。
思わず頬が引き攣る。

「碓氷さん。おはようございます。朝からなにやら嬉しそうですね」

ニヤニヤ顔のまま探るようにそんなことを言われて、益々頬が引き攣るというもの。

「おはようこざいます」

探るような言葉はスルーして、挨拶だけ返したのだけれど、田山さんの表情は相変わらずで、その顔のまま自分の席へといってしまった。

経理の間で、変な噂話でもしそうな気がする。
やれやれ。
田山さんの事は気にしないようにしよ。

それより、乾君への返信だよ。
ランチかー。
新店に行くから、少しはやめに食べたいんだよね。
大丈夫かな?

乾君へちょっと早めの時間でいいかメッセージを送ってみる。
少しの間返信を待っていたけれど返ってこないので、給湯室へコーヒーを淹れにいくのに席を立った。

一緒に何を食べようかとあれこれ想像しながらフロアを出ると、すぐの廊下の壁に待ち伏せていたかのように乾君が立っていて驚いた。

「っ!?」

驚きに息を呑み胸に手を当てていたら、私のリアクションを見て面白そうに声を殺して笑っている。

「ちょっと驚かそうと思って」

そんな彼の思惑に、まんまとはまった私。
なのに、なんだか楽しいのは、やっぱり想いのせい?

一緒になってクスクス笑いながら、二人で給湯室へと向かった。