そんな国にある漁業者が集まる1番大きな街、カノン。多くの人々が行き交う賑やかな露店街に一つの怒号が響き渡った

「おい!テメェ待ちやがれ!!」

「…まだ追ってくるのか、あのおっさん」


人混みを強引に押し退けて逃げ回るのは1人の小柄な少女

羽織っている黒い布に付いたフードを目深に被り周りの不審な視線を一身に浴びながらひたすら足を動かす

露店を抜けると、狭い路地が見え、身体を大きく捻りそこへ入り込んだ

近くに積まれてあった木箱の間に体を隠し、息を潜める

「…はぁ…はぁ…あいつ、どこへ消えやがった…」

男はあたりを見渡し、少女の影を探すが見つからず、小さく舌打ちをすると近くのゴミ箱を思い切り蹴り上げた

ガンッと鈍い音をたててゴミ箱は転がり、中に入っていた生ゴミがぶちまける

それを無表情で暫く見つめると、ふらふらと元来た道を歩き出した

足音が遠ざかり、少女はそろりと身体を出して外を見やる

「…もういない…な」

男の影がないのを確認してようやく深く息を吐いた