シノはカイアではかなり有名な傍若無人の狼であった。だが、ある日を境にリィナ限定の犬になった

もともと群れるのが嫌であるが、リィナとならどこに行ってもいいし、死んでもいいと思えるほどリィナに忠誠を誓っている

何が彼をここまで突き動かしているのかわからないが、リィナもまた、シノを信頼しているのも確かだった








ぶくぶくと泡のお風呂に肩まで浸かりながらリィナは上を見上げる

今回は遠出するからかなりの日数家を空けることになるだろう

となると、シノは置いていくべきか、連れて行くべきか…

「リィナさーん!着替えの服ここに置いときますねー!」

「…ん」

浴室のドア越しに聞こえた声に小さく返事をして浴槽から出る

水属性の魔法が得意なリィナは腕につけたままのサファイアのブレスレットに一つキスを落とすと

ふわりと柔らかな青い光がリィナを包み込み、一瞬のうちに身体についた水滴が無くなった

こういう使い方も出来るから、魔法って結構便利だと思う

シノに用意してもらった真っ白でフワフワな服を着て浴室を出ると酷く残念そうな顔をしたシノがいた

「あーーー!もしかして魔法使っちゃったの⁉︎俺がリィナさんの髪を乾かしたかったのに!!」

シュン…と大きな身体を縮こませ、項垂れるシノは本当に狼なのかと思えるほど弱々しく、いじけている姿は少し可愛かった

…仕方ないな

座り込んでいるシノの頭を優しく撫でてやると、意地になってるのかムッとしたまま見上げてくる

「…なんですかー、久々に帰ってきたから楽しみにしてたのにー」

「悪かった。次の依頼は一度街へ行かなければいけない。いつもより長く家を空けることになる」

「…もう、今それ言いますか?わかりましたよー、その間大人しく留守番してたらいーんでしょ?」

「シノ…一緒に来るか?」

「………え?」

ポカンと口を開けたシノはしばらく固まっていたがやがてフルフルと身体を震わせて勢いよく立ち上がった

「リィナさぁぁぁーーん!」

ガバッと抱きつくとリィナを持ち上げクルクルと回り出す

さすが獣人であるだけに力は強く、回る速さも尋常じゃない

「やめろ馬鹿犬」

流石にクラクラとしてきたのでベシっと容赦なく頭を叩くと漸く回転を止め、リィナを優しく下ろした

「いたっ!ごめんなさい!でも、本当に良いんですか⁉︎」

「良いって言ってる。嫌なら留守番してろ」

「嫌!絶対行く!行きます!」

だらしない顔をしているシノの頭をさっきより軽く叩くとあきれたように笑い、明日の朝出るから準備しておけと言って寝室へ消えていく


「…ふはっ…リィナさん可愛いなぁ」

久々に一緒に遠出できることに顔は緩みっぱなしで、鼻歌を歌いながら早速準備に取り掛かったのだった