あたしに背中を向けて、服を着てゆく一也を見るともなく見る。


 筋肉が付いた広い背中が男らしくて、綺麗だななんて思うあたしは呑気すぎるだろうか。


 まあ、いままでも別に自分から望んでしてたセックスじゃなし。


 いまさら、強引に抱かれたからと言って特に感慨なんかない。




 「…あ、っ痛」




 無造作に身動ぎしたのがマズかったのか、下腹を貫いた痛みに呻いて、お腹を抑えて蹲る。


 このままベッドに突っ伏して眠りたいのが本当だけど、さすがに外泊するのはNGだと思う。


 いくら、お邸の坊ちゃんが一緒でも…。




 「…動けるか?」




 不機嫌な顔のくせに、手つきは丁寧で優しい。


 着替え終わった一也が、ベッドに腰を下ろして、あたしの頭に手を置きそっと撫でた。


 自分がやったくせに、あんたの方が痛そうな顔してるってどんなもんなのよ。




 「別に平気」

 「…お前、このままここに泊まって行けよ」




 できることならその言葉に甘えたいところだけど、それはあたしの中のルールに反することだ。


 門倉の家に義理を果たせないようなことをするべきじゃない。


 報酬をもらってあたしはここにいるんだから、できるだけの努力をする義務がある。


 …それがたとえ、当の一也に許可を受けたのだとしても。


 一度、自分を甘やかしたら、ズルズルと義務を放棄してしまいそうな自分をわかっていた。


 まずはあたしが財前のお邸にいること。


 そして、そこで求められるできるだけのすべてをこなすことがあたしに課せられた責務だった。




 「いい、帰る。車呼んで」

 「…チッ、素直じゃねぇな。手伝ってやるから、お前、着替えろ。それから車も呼ぶから」




 着替えくらい自分でやれる。


 そう断ろうと思ったけど、一也の目の奥にある罪悪感に、多少絆されて助けられてやることにした。




 「じゃあ、あんたが剥ぎ取ったスカートやらカットソーとってきて。パンツとキャミソールもだよ」




 ムッとした顔をしながらも、唯々諾々と従う大きな男がちょっとだけおかしい。


 そろそろとシーツを体に巻きつけたまま、衣類を受け取る。


 別にこれくらいなら、いままでにも経験したことがないわけじゃない。


 ちょっと乱暴だったとは思うけど、殴られたり、あえて痛めつけたりされたわけじゃないしね。


 でもやっぱり、若い子とのセックスはけっこうキツイよね。


 なんて。


 なんだか足の間や、舐めまわされた体がベタベタして気持ち悪い。




 「…やっぱりシャワー浴びてから着替えるから、その間にあんた、ストッキング買ってきてよ」