Sweet Honey Baby

 連絡なんて絶対するわけがなかったけど、もう二度と会うつもりのない相手だ。


 強固に拒否して、わざわざ波風を立てることもない。




 「…気が向いたら」

 「うん、それでいいよ。ミカちゃんとはいろいろ相性も良かったし、気もあってたからさ」




 名刺を受取って、会社の所在地を確認する。


 どうやら休日を楽しんでのショッピングとかではなく、この辺に職場があるらしかった。


 まあ、スーツ着てるしねぇ。


 でも、やばいよな。


 あんまりこの辺をうろつくのは、どうやら得策ではないことに今更ながらに気が付いた。


 この人はわりとフツーの人で、後腐れもなかったけど、一時期むちゃやってた頃には、お近づきになるべきでないような相手も無差別に付き合っていたことがある。


 もちろん、シャレにならないようなヤバイ職種の人たちのことは、なけなしの理性で避けてたけど。


 叩けばいくらでも埃が出る身なんだから、呑気もたいがいにしないとと気を引き締めた。




 「あの…あたし、人を待たせてるんで」

 「あ、うん。ごめん、じゃ、俺もまだ仕事中だし」




 去ってゆく松山さんの背中を見送り、溜息一つ。


 そして、車道を挟んで向こう側のカフェへと足を踏みだし…かけた。




 「ふうん、素敵な人じゃない。財前様っていう婚約者がありながら、あっちもこっちも、あなたって大した人なのね」




 一難去ってまた一難。


 ちょっと違うか。


 振り向くと、女の子同士連れ立った蓉子ちゃんが、立っていた。




 「…お買い物?」




 一応、無駄な努力だと思いつつ、フレンドリーにお伺いを立ててみた。




 「あなたみたいに胡散臭い人は、財前家に相応しくないのよ」




 ギラギラした目が嫉妬と憎悪を浮かべていて、とてもじゃないけど、普通の会話なんて成り立ちそうもない。


 そういえば、この子って、浩介を狙っていた時もこんな目であたしを見てたっけ。


 男を間に挟んでバトルなんて面倒臭いこと、もうごめんなんだけどな。


 どうにもこうにも、この子とあたしは、そういう運命の星の下で出くわすようになっているらしかった。