Sweet Honey Baby

 第一、あたしだけこんなに物を買ってもらって、まだあたしのものだけ見ようって気になれるわけもない。


 デートだというのならともかく、それだって人間関係は基本ギブ&テイクだ。


 あたしが見たいもの、欲しい店に入ったら、今度は一也の行きたいところへ行く。


 厳密に交互にする必要もないけど、自分ばかりの欲求を受け入れてもらうのは居心地が悪かった。




 「…んだよ、調子狂うな。フツー、女って自分が欲しいものや見たいものに付き合わせるのが好きだろ?」

 「は?女友達同士で来たって、微妙に趣味違ったりして、待っててあげる時間もけっこうあるわよ。男は違うわけ?」

 「男同士でショッピングになんかくっかよ。気持ちわりぃ」

 「…あそ」




 男同士でショッピングしたって、いけないことはないと思うんだけどね。


 いかにも我儘で我が強そうなこいつなら、基本が単独行動なのかもしれない。


 グルリと店内を見回すと、やっぱりあたしが普段来るようなディスカウントショップとは全然違って、高そうな衣類が並ぶおしゃれな空間。


 あたしの服を買ってもらった店と同じく、入った途端、店員がすぐに気が付いて、





 「「「いらっしゃいませ」」」




 挨拶をして歩み寄って来る。




 「財前様、ただいま、店長を読んでまいりますので」




 今度はすぐに一也のことがわかったのか、名乗るまでもなく店員の一人が店奥へと消えていった。




 「あ、いい。今日は勝手に見るから、ほって置いて」

 「…は?いえ、かしこまりました」




 怪訝そうな顔をしているから、たぶん、いつもはあたしの時同様、何着もお勧めを出させて見本市してたんだろうな。




 「お前、選んで」

 「はあ?」




 何言ってんだ、こいつ。




 「いいじゃん。さっきの店で、俺がお前の服選んでやっただろ?」




 「…あたしは選んでって頼んでないのに、あんたが勝手にこれにしろ、あれにしろって言いだしたんでしょ」




 まあ、最終的決定権はあたしにあったし、けっこうこいつの趣味は悪くなかった。




 「お前だって気に入ってたじゃん。それとも、やっぱり適当に集めさせて並べさせるか?」




 うーん。


 あたしはけっこうたくさんの服と服の間から、これ!という1着を探すのが好きだ。


 友達やツレに言われるのならともかく、店員からこれはどうだ、あれはどうだと勧められるのは得意じゃない。




 「何が欲しいわけ?」

 「特に欲しいものがあるわけじゃない。俺が持ってないものも足りないものもあるわけねぇからな」

 「…まあ、そうでしょうねぇ」




 あたしでさえ、用意されていたワードロープは一杯で、あたしが選んだ覚えはまったくないのに、知らないうちに増えていることも減っていることもよくある。


 たぶん、使用人さんのうちの誰かが、適当に必要不必要を判断して仕分けしていて、気に入ったのがあるんなら、頼んでおけば捨てないでくれるんだろう。




 「…じゃ、これまず着てみなよ」




 さっき、一也が目を留めてた1着。


 豪奢なファーがついた細身のモッズコート。


 スラッとスタイルが良くて長身の一也には、いかにも似合いそうだった。