Sweet Honey Baby

 「…靴、自分で持つよ、そんなに重くないし」

 「いいよ。女に荷物持たせてるのカッコ悪いだろ?」




 そんなもんだろうか。


 あたしもかつては男女交際だってしたことがあった。


 それでも、どちらかというと友達彼氏みたいなところも強かったし、ごく庶民同士のカップルだった。


 重い荷物とかだったら持ってくれたりもしたけど、一也のようにいかにもレディファースト的なことはしてもらったことはない。


 …なんていうか、気恥ずかしいよね、こいつ。


 日本人なのに、店に入る時にはドアは開けてくれるし、歩道でも車道側にはあたしを歩かせない。


 車に乗る時だって、わざわざ自分が先に乗って、中から手を差し出してくれる。


 これが意識してやってることなら単に嫌味な気障ヤローってキモイだけなんだけどね。


 たぶん子供の頃から叩き込まれてるんだろう、自然な行動がカッコ良かった。


 それに、それが普通に様になってる。


 王子様になんて憧れたことはなかったはずなのに、気が付けばうっとりとしている瞬間が確かにある。


 やっぱ、あたしも女の子なんだよな、ってね。


 チラチラと横を歩く一也を伺っていたら、




 「おっ…」




 立ち止まった視線の先に、男性用カジュアルのショップのショーウインドー。




 「…えっと、寄る?」

 「ん…、どうすっか。別に特に必要なものがあるってわけじゃねぇんだけど」




 迷うそぶりだったけど、視線の先、ウィンドーじゃなくって、その奥に見えるマネキンが着ているコートが気になっているみたいで、視線が留まっている。


 あたしは考える間も置かず、長身の男の腕を両手で掴んで、店へと引っ張った。




 「わっ、なんだよ」

 「見ようよ。目的があって来たわけじゃないんだし、それこそちょっとでも気になったのがあるなら、いいじゃない」

 「お前の買い物だろ?」

 「一緒に来てるんだから、あたしだけ楽しんだってしょうがないじゃん」