Sweet Honey Baby

 なんだか知らないけど奥から店長さんとやらが呼び出されてきて、へいこら歓待されたと思ったら、山ほどの衣類や靴、鞄など店内の商品を並べたてられた。


 …いや、勝手に見るから、わざわざ引き出してこなくても。




 「好きなの、選べよ」

 「…いや、選べって言われたってね」




 一応カード類は持たされてるし、いくらいくらと月々のお小遣いも設定されていたけど、使う気にはなれなかった。


 …だってさ、親だって認識さえもあんまりない門倉の家から出てるお金だよ。


 しかも、どちらかといえば一也の婚約者の身代わりとしての報酬みたいなもんだから、お金を目の当たりにすると、いかにも自分が身売りしているような気がして気分が良くなかった。




 「靴以外は、なんでも買ってやるから心配すんな」

 「…靴以外って」




 何も買って欲しいわけじゃなかったけど、どうしてそこで靴は除外なの?




 「…あんたがショーウインドーに飾ってあった靴があたしに似合うって、この店に連れ込んだんじゃなかったっけ?」

 「…靴はいいんだよ、靴は。それくらい自分で買える金ぐらい持ってんだろ?」

 「持ってないとは言わないけど」




 なんだか納得いかない。


 それはそれとして。




 「服や鞄もいらないわよ」










 結局押し問答の末、何着かの服とコート、鞄は買ってもらった。




 『いらない』




 というと、




 『じゃあ、全部、買うから邸に持ってきて』




 とかいうので、選ばざる得なかった。


 自分で買った靴の袋だけは、一也が持って歩いてくれている。


 一也には買わせておいて、当初目的だった靴を買わないのはなんだか悪い気がしたから。 


 …まあ、別にあたしが気に入ったってわけじゃないんだけど、履いてみたら悪くはなかった。


 どんな服やコートにも合わせやすいし、確かに背の高いあたしには似合う気がした。