Sweet Honey Baby

 「俺、ちーちゃん気に入っちゃった。今度、もう一人いる俺らのダチにも紹介するから、一緒に遊ぼうよ」

 「え?あ、うん」




 って、言っていいのかな。


 ついつい、一也の方へと伺ってしまう。




 「ちーちゃんって、大和撫子?」

 「は?なんで?」

 「何かというと、一也に意見求めてるよね」

 「あ…」



 大和撫子とかいうのとは、意味違う気もするけど、まあ、ひかる君の言いたいことはわかる。


 普段、あたしはもちろん、そういったタイプってわけじゃない。


 だけど、財前の家に居候するようになってからのあたしは、なるべく自我を押し殺すように、前に出ないようにしてきた。


 それは一つには、周囲にそう求められていたからだし、何もかもが戸惑うばかりで、不慣れなあたしは失敗しないように誰かに頼るしかなかったからだ。


 やだな…自分なさすぎたかな、この頃のあたし。


 ふと、気が付く。


 けれど、かといって、今のあたしの立場で自分勝手なことをするわけにはいかないのも本当だった。




 「…自分の意思がないのと、大和撫子っていうのは別ものだろ?」

 「まあ、そりゃそうかもしれないけど、ちーちゃんの場合、自分の意思がないというより、失敗して迷惑かけないようにしてるんじゃない?」




 ニッコリ優しく微笑みかけられて、なんだか嬉しくなってくる。


 まだ出会ったばかりで、ちょっとしか喋ったりしてないのに、ひかる君、あたしのこと察してくれたんだ。


 たぶんそれは、ひかる君が先入観や色眼鏡なんかで他人を見ないで、その人の表情や喋り方、相手への接し方で人となりを判断してるってことなんだろう。


 なんだか、この子、好きだな。


 もちろん、男を感じたりしているわけじゃないけど。




 「…もう、帰れよ」
 
 「はい?なにそれ?」

 「…何言ってんの?」




 思わずひかる君と顔を見合わせたら、唇を尖らせた一也があたしの手を掴んで、店の奥へと強引に引っ張ってゆく。




 「ちょっと!」

 「…やだね~、男の焼きもちは。いいよ、邪魔しないし。またね、ちーちゃん!」




 焼きもちって…。




 「誰が焼きもちなんか焼くかっ」




 …焼いたのか。


 意外に子供っぽいところがある男だよね。


 注目が自分にないとダメ。


 話題の中心が自分でないとダメ。


 自分以外の人間同士が仲睦まじくするのも、不機嫌になる原因らしかった。