Sweet Honey Baby

 「ああ。そうなんだ!」




 目を見開いて驚いている。


 そんなに意外かな。




 「いや、珍しいね。一ちゃんもたいがい女の子、とっかえひっかえしてるけど」

 「へえ?」

 「…よけいなこと言うんじゃねぇっ」




 相槌打って、なんとなく顔を見上げただけなのに、視線が合ったとたん妙に焦ってるのに笑ってしまった。




 「でも婚約者の子はそういうのとはちょっと違うから、デートとかしないよね?」

 「…変な期待されても困るしな」




 それでも寝てたんだろうから、けっこう鬼畜な奴だよね。




 「なんだよ、その目」 

 「いや、別に。一ちゃんの人でなしさは、十分わからせてもらったから」

 「人でなしつーのはなんだよっ、人聞きの悪い。てゆーか、一ちゃんって言うの、辞めろって言ってんだろ?」




 何言ってんだか。


 一ちゃん呼ばわりしてる友達もちゃんといるんじゃん。


 そうは思ったけど、ああ、そうか、単にあたしには呼ばれたくないだけなのかもしれない。


 なんとなく、『一也』と呼び捨てるより、『一ちゃん』の方が親密な気がして、それをあたしだけやめろと言われるのに、ちょっとだけムッとしてしまった。


 別にいいじゃん。


 呼び名くらい。




 「…ケチ」

 「は?」

 「いい、こっちの話」

 「女の子の服、けっこうちーちゃんに似合いそうなの入ってたから、たくさん買ってもらうといいよ」

 「え?いや…」




 買ってもらうって、高校生の子に何買ってもらうっていうわけ?


 まあ、財力的にはあたしよりよほど資金力豊富なんだろうとは思うけどさ。




 「お前は?」

 「あー、花梨に似合いそうなの探してたんだけどさ。ここの奴、今年はちょっと花梨には大人っぽすぎるかな」

 「…お前、よく続いてるよな。あの女と」




 どうやら一也もひかる君のカノジョのことを知ってるみたいで、飽きれた顔をしていた。


 なんなんだろうね、この顔。


 どんな子なんだか知らないけど、仮にも友達のカノジョに失礼なんじゃない?




 「…すげぇ、平凡な女」

 「……」




 胡乱なあたしの視線に一也が気が付いたみたいで、肩をすくめて一言だった。




 「ほっといてよ。花梨はそこが可愛んだから」

 「…平凡って、それこそ没個性的な批評だよ。人類の全体を見て平均的な人を平凡って言うんだろうけど、それが顔なのか、頭なのか、あるいは性格なのか。それだってその顔や頭や性格のどこがどう平凡なのかとか、いろんなタイプあるんだから」




 あたしの言い方が何か変だったのか、男の子二人がキョトンとあたしを見返す。


 自分たちが、際立って異質だからって、さも個性的=いいものだと勝手に勘違いしないで欲しい。




 「はははは!そのとおり!もっと、この頭カチカチの傲慢野郎に言ってやって?」




 何が面白いんだか、ひかる君は大うけだった。




 「俺もさ、平凡っていう言葉は苦手」

 「あたしは別に嫌じゃないけど」

 「あー、俺も嫌いじゃないんだけど、一括りにするのがね」

 「ああ、それならわかる」




 一也の友達だっていうからどれだけ偏った子なのかと思ったけど、見た目の派手さとは違って、けっこうわかってる子らしく、話していて不快感がなかった。


 一也と友達だというからには、この子もたぶんお金持ちだよね。


 こんなブランドショップに平気で入って、カノジョへのプレゼントとかを選らんだりしてるわけだし。


 それでも気取ってなくて、気さくで話しやすい男の子だった。