Sweet Honey Baby

 「お前って…ホント、謎な女だよな。敷居が高いって、門倉のお嬢だったらこういう店でフツーに買い物してっだろ?」

 「…まあね。でもほら、あたし、田舎で静養してたし」




 いまいち言い訳に説得力ないけど、まあそういうことになってるんだから、そうとしかいいようがない。




 「欲しいもんあるんじゃねぇの?」

 「どうかな」




 少し離れて立っていた一也が、あたしの真後ろに歩み寄り、ガラスに片手をついてショーウィンドーを覗き込んだ。




 「…その臙脂のロングブーツいいじゃん。お前、けっこう女のわりにタッパあるし、足もなげぇから、それなりに見栄えするんじゃね?」

 「そ、そうかな?」




 耳元で囁かれてるみたいに、息が少しかかってくすぐったい。


 …ガキのくせにセクシーな声してるから、こんなに近くに綺麗な顔を寄せられると、枯れてるあたしでも少しはドキドキしてしまう。 




 「こんなところで眺めてても仕方ねぇから、中入ろうぜ」

 「え?ちょっとっ!」




 買うつもりはなかったし、気分転換のつもりだったから店員を煩わせるのが嫌で中には入らなかったのに、いきなり手を取られて、ズンズン店の中へと引っ張り入れられてしまった。




 「「いらっしゃいませ」」




 綺麗なマヌカンのお姉さんが、すかさず営業スマイルで近づいてくる。




 「店長いる?」

 「あ、はい」

 「財前が来たから、連れに似合うの適当に見繕って見せて欲しいって頼んでよ」

 「は、はい、ただいまっ」




 一也の顔を見て、顔見知りなのか、お姉さんの一人が慌てて店の奥へと走ってゆく。


 …えっと、もしかして、勝手に見るとか言うんじゃなくて、バリバリ接客してもらおうってことなのか、とちょっとうんざりしてしまった。


 面倒臭いな~。


 正直、あたしはあんまり接客されるのが好きじゃない。


 欲しいものがあれば即決買いする方だし、欲しくないものは勧められてもまず買わない。


 と、なると、熱心に接客なんかされちゃっても、たいてい店員さんの意見なんて聞かないから、さんざん時間とらせたあげくに買わないっていうのがけっこう苦痛なんだよね。


 まあ、嫌なら最初からケンもホロロに拒絶すればいいのかもしれしなけれど、外見はともかく中身はバリバリの日本人のあたしは、ついつい曖昧に愛想良くしがちだった。




 「あれ?一也じゃん」