Sweet Honey Baby

 適当に喜ばせとけ、と思って褒めてやったのに、微妙な顔で顔を顰めた一也が、フンと鼻を鳴らして小さく頭を小突いてきた。




 「なにすんのよ。褒めてやったのにずいぶんじゃない?」

 「…褒めてやった…そこにお前の心情が十分込められてるよな」

 「ははは…」

 「どうせ、お前のことだから、適当におだてとけばいいとか、そう思ってんだろ」

 「……バカじゃないんだね…って!!い、いひゃいっ!女に、暴力ふるなっ!」




 ビヨーンと頬っぺたを引っ張られて、顔が痛い。


 慌ててひっかいてやろうとしたけど、よけられてきっと赤くなってるであろう頬をスリスリ撫でながら、恨めしく睨みつけてやった。


 子供か、あんたは!?




 「お前の口が悪いんだろ?」

 「…なんでよ」

 「お前のは慇懃無礼ってやつで、少しも可愛くねぇ」




 可愛いって言われても困るけど、こうも裏まで読まれるとバツが悪い。




 「学校には可愛い子だっていっぱいいるでしょ?何もあたしに構わなくったって、適当に相手してもらえばいいじゃん」

 「…お前、それでも婚約者に言うセリフかよ」




 そう言われてしまうと、さすがのあたしでもちょっと気まずかった。




 「…一ちゃんさあ」

 「……」




 ギロリ。


 睨まれて、言い直す。




 「一也さ。本当にあたしと結婚するつもりなの?」




 言わずもがななことだけど、正直、無視されているよりこうやってそれなりに友達みたいに付き合っている今の方があたしの戸惑いは大きかった。




 「お前こそどうなの?」

 「…どうなの、って言われても」




 一也が好きか、嫌いかと言われれば、もちろん恋したりそういう感情は皆無だし、嫌いというわけでもなかった。


 結婚かあ…。




 「俺んちとお前んち両家の間で特に利害の不一致がなければ、たぶん俺の大学卒業を待って結婚って話も具体的に出ると思うぜ」

 「え~」




 まあ、それにしたって今年大学1年生に入学する一也が卒業するのなんて、まだ4年も先のことだ。




 「俺は別にかまわない、ぜ」

 「は?」

 「お前、鼻につく女じゃないし、どうせ誰かしら押し付けられるのは目に見えてるしな」

 「うーん」




 あたしが言うのもなんだけど、こんな結婚観でこいつ本当にいいんだろうか。




 「じゃ、問題ないよな?」

 「うーん、うーん」




 なんだか嬉しそうにされてるのが、ちょっと困る。


 鼻歌なんて歌っちゃって、こいつ、あたしのこと別に好きじゃないって言ってたけど、本当に本当だよね?


 適当に生きてるあたしだけど、もう誰かを傷つけたり、哀しませたり、そういう強い感情に晒されるのは、もう嫌だと…そう思うあたしはきっとすごくズルくて、臆病なんだろうな。