Sweet Honey Baby

 一度、犬みたいな男だと思うと、一也が何から何まで犬的な奴に思えて来て、なんだか戸惑ってしまう。


 現在春休み中のあたしは、ほとんど邸から出ることもできずに花嫁修業三昧。


 一也の方も、知らないうちに卒業式も終え、冬休みに突入したようで、邸にいることが多くなった。


 しっかし、こいつの両親ってどうなってんの?


 あたしも彼是2か月近くこのお邸に居候してるけど、顔を見せないどころか、その影さえない。


 もちろん、こうやってデカイお邸を維持してるくらいだから、子供が知らぬところであくせく働いているのかもしれないけど、それにしたってねぇ。


 子供の高校の卒業式くらい顔だそうよ?


 それともあたしの知らないところで、会ったりしてるのかな?


 そのわりには一也の態度はいつも平常運転で、毎日の生活に変わったことがあったようには思えなかった。


 けっこう最近雑談とかするもんね。


 久しぶりに親と顔を合わせたら、それくらいの話題でそうなもんだけど。


 ととと、そうそう、貴重なあたしのお昼寝時間。


 なぜか、最近語学の授業を終えると、こうやって一也に待ち伏せされていることがほとんどだった。




 「…バイク磨く間、暇だからお前、なんか喋ってBGMにでもなってろ」

 「いや、暇って、バイク磨くのに集中してたらそんなんあっという間でしょ、普通」




 使用人なんかが一杯いていくらでも手があるのに、自分で磨いているくらいなんだから好きでやっているんだろうに、いったいどういう言い草なんだろう。




 「あたしの貴重な昼寝時間だし、話し相手がいなくて寂しいなら友達でも呼べばいいじゃん」

 「…バイク磨くだけなのに、フツーダチなんか呼ぶかよ」




 まあ、それもそうだ。




 「じゃあ、音楽でも聞きながらやれば?」




 こいつの我儘を聞くのも婚約者のお役目の一つだっていうのかもしれなかったけれど、小さな子供じゃないんだからどう考えてもそこまで拘束されるいわれはない。


 立ちふさがるデカい体を回り込んで、あたしはさっさとその場を立ち去り…かけた。




 「プチ・フルールのケーキ!」

 「……は?」

 「この間雑誌に載ったとかいうフランス人パティシエが作ってる絶品スウィーツの店に連れてってやる」