Sweet Honey Baby

 あたしだってまともな美的感覚は持っている。


 好きか嫌いかで言えば、『興味ない』範疇だけど、どんな奴だって怒ってるより笑ってる方がいい。




 「…なんだよ?」

 「いや、あんたも年相応に笑ったりするんだって思って」




 ちょっとしくじったらしい。


 不機嫌そうに唇を尖らせて、プイッとソッポを向かれてしまう。


 でも、その横顔がわずかに紅潮していて、そういえば、あたしより2才も年下だったんだと少しだけ可愛くなった。


 まあね、あんな初対面の仕方しなきゃ、弟みたいに思ったって良かったなって思わなくない。


 実際は婚約者とかいうカンケイで、弟っていうのはだいぶスタンスが違うんだろうけど、こんなガキ相手に男を感じろっていうのは無理な話だもんね。



 
 「あんたこそ、なんであんなところで寝てたのよ?」

 「…試験勉強」

 「はあ?試験勉強って、あんたマジでそんなもんやってたの?」

 「……驚くところはそこかよ」




 あ、ははは。


 確かにそうなんだけど…。




 「いや、あんたってけっこうマジメだよね?学校も毎日ちゃんと通ってるし。もしかして、家庭教師もつけて、家でもけっこう勉強してるわけ?」

 「…まあな、負けたくねぇし」




 進学校通ってるんだもんね。


 そこそこの学校で、ほのぼの女子高生時代を過ごしたあたしとは、かなり状況は違うか。


 それにしても、あたしのお金持ちお坊ちゃんのイメージをことごとく突き崩してくれる男だな、こいつは。




 「で、欲しい資料が部屋になかったから、図書室の方に探しに来たわけ」

 「と、図書室~っ!?だって、あたしが住んでる西館にもあるよ、図書室」

 「そりゃ、あるだろ。往復10分かかるのに、一々とりにいってらんねぇだろ?」




 いや…家の中に図書室がある事態ありえないんですけど。


 それはともかく。




 「じゃ、本取にきて具合悪くなったわけ?」

 「まあな。なんとなく、朝から調子悪かったんだけど、明日から試験で大詰めだったし」




 大きく溜息をつく。


 それりゃそうだよね。


 いくら勉強しても、体調崩してたらいい結果がでるはずがない。




 「今回の試験って、大学受験に重要な奴なの?」




 それだったら大変なことになるよね。




 「いや、俺、もう上の大学行くこと決まってるし、一応受ければ問題ない程度だろ?それだって、体調不良を連絡すれば後日再試験だって受けられるだろうしさ」

 「…あ、そ」




 ただ単純に、好成績をとりたいだけらしい。


 どんだけ、がり勉なのよ、こいつ。


 見た目、まったく努力とかしてなさそうなのに、人間ってわからない。