Sweet Honey Baby

 は?何言ってんだこいつ。


 思わぬことを言われ、掴もうと手を伸ばしたまま俺は固まった。




 「あたしのこと、好きなの?」




 もう一度、今度は噛んで含めるようにゆっくりと言われ、
 



 「ハッ!」




 今度は、ちゃんと笑い声がが出た。




 「ははははは!何言ってんだ、お前。俺が誰を好きだって?己惚れんじゃねぇよ」




 何様だこの女。


 どこの家の娘だか知らねぇけど、親が決めただけのお飾りの婚約者なくせに言うに事欠いて、誰が誰を好きだって?


 ホント、笑える。


 俺はこういう自意識過剰な女が大っ嫌いだ。


 …一回寝たからって、なんか勘違いさせちまったってことか?


 本当はムカついてんのに、嘲りをこめてわざと大笑いしてやりながら、横で突っ立っている女を横目でにらみつける




 「…フザけんな」




 低く威嚇してやる。


 …が、当の女は、屈辱と羞恥に顔を赤らめるでもなく、意気消沈するでもなく、アッサリ、




 「そっかあ。まあ、それはないだろうとは思ったんだけど、あんた妙にあたしに構ってくるから、もしかして、とか思ってね。ちょっと、自意識過剰だった?」




 ケロッと返して来る。


 なんなんだ、この女ッ。


 あっさり誤解も解けて、この女の己惚れも否定してやったと言うのに、なぜかそれはそれで面白くない気がして、内心狼狽える。


 なんだよ、俺。




 「それなら、ま、良かったわ。私的にも、そういうの困るし。じゃ、そういうことで」 そのまま部屋へと入られてしまいそうなのを、とっさに手首を抑える。

 「おいって」




 わざとらしく女がはああっと大きく溜息を突き、なんなのコイツ的な視線を向けてくる。


 ありえねぇ。


 俺は今まで女に追いすがられることはあっても、こんな呆れたような迷惑顔されたことなんてないってーのに。




 「まだ話しあるなら早くしてよ。あたしこれからお昼寝タイムだから」

 「…は?」

 「こんな窮屈な生活で、唯一あたしに約束された自由なのっ。用がないならもう引き留めないでよ」