「え~?」
頼み事をした後なので、無下には断りづらいけれど、正直これから、というのはあたしには迷惑だった。
…だって、これからあたしの唯一の楽しみ、『お昼寝タイム』なんだもん。
三食昼寝付のうち、三食はけっこうここのところ苦痛な時間になりつつある。
それというのもせっかくの美味しい食事もテーブルマナーの時間に成り果てているからだった。
それに比べて、この15時からのお昼寝タイム(別に昼寝じゃなくてもいいんだけど)は、びっちりスケジュールを組まれているあたしの花嫁修業の中で、唯一与えられた自由時間だったから。
本当は、15時から16時の間は、テレビを見たり本を読んだりするのも許されている。
でもあたしは、ただただ昼寝をするのを楽しみにしていた。
この後は夜22時まで何かと管理されているんだもん。
少しでも邪魔されないとしたら、あたしには昼寝しかない。
テレビを見ても本を読んでも、口出しをされるのなら(ここに来た当初、漫画を持ち込もうとしたら、文学読めとかメイドさんからご注進がいったらしく、先生の一人に説教された)、ただ寝ている方がいい。
幸い、あたしは寝るのが三度のご飯より好きなタチだった。
「…付き合うってどこへ行くの?その、あんまり時間ないんだけど」
とりあえず、目的がなんなのか聞かなければ断りづらい…もう、けっこう断る方向に頭が行ってるあたしってけっこう恩知らずなのか。
それなりに疚しく思いつつ、かまわないでオーラを醸し出す。
が、目の前のどう見ても人の気持ちの機微に疎そうな男は、やっぱり遠回しの拒絶など察してはくれなかった。
「ダチが新しい俺の婚約者を見たいっていうからさ。ちょうど試験終わって、明日からガッコも休みだし、ちょっと遊びに行くからお前も来い」
「はあ。そういえば、高校生は試験だったんだっけ」
だからといって、忙しいあたしを連れ出されても正直困る。
遊びに…という言葉には多少惹かれないわけではなかったけれど、自分の友達と出かけるならともかく、新しく飼った犬よろしく引き出されるのは気が進まなかった。
…こいつの意識だと、婚約者って言ったって、たぶんこの仔を飼うのとあまり変わらないんだろうし。
そう思うと、金で買われたといえ、さすがに気が滅入ってきた。
「…それって、あたしに拒否権ある?」
一応聞いてみるも、逆に「はあ?」と聞き返されて、コイツの頭の中では拒否のきの字もなかったのが、容易に窺い知れた。
「お前、この前も俺の誘い断ってたよな」
そんなことあったっけと、記憶を探るも憶えていない。
「バイク乗せてやるって言ったのに、断りやがっただろ」
「…ああ、そんなこともあったっけ」
あたしにしてみれば些細なやり取りだったので、気にしてもいなかった。
て、いうかさ。
なんで、こいつやたらとあたしに構うんだろう。
親の決めた婚約者なんてうぜぇって思わないわけ?
…まあ、いきなり初対面で押し倒して来るような非常識な奴だから、ちょうどいい玩具が手に入ったくらいの気持ちでいるのかもしれない。
あるいは…。
まさかね。
ないとは思うけど、一応は確認をとってみようか。
それによっては、こちらの対応も多少変わってくるよね?
「ねえ、どうしてあたしに構うの?」
「…はあ?」
「ダチっていうくらいだから、友達いないわけじゃないんでしょ?」
「バカにしてんのか」
「いや、そういうわけじゃないんだけどね」
これだけ無礼な男なら、人に好かれないんじゃないかと思ったとはさすがに言えない。
「それなら、親が決めた婚約者なんか放っておけばいいのに。最初の感じだと、あたしと仲良く円満な家庭を築きましょうって感じじゃなかったでしょ?」
ムッと口を尖らせる顔が妙に子供っぽい。
人並み以上に整った美貌が、大人びさせているだけで、この男が実はまだ高校生なのだとあたしに思い出させた。
「別にいいだろ。ごちゃごちゃウルセェ。とにかく、行くぞ」
強引に手を掴んで来ようとする手を掻い潜って後退り、さっきから疑問に思っていた問いをぶつけてみる。
「…もしかして、あんた、あたしのこと、好きなの?」
頼み事をした後なので、無下には断りづらいけれど、正直これから、というのはあたしには迷惑だった。
…だって、これからあたしの唯一の楽しみ、『お昼寝タイム』なんだもん。
三食昼寝付のうち、三食はけっこうここのところ苦痛な時間になりつつある。
それというのもせっかくの美味しい食事もテーブルマナーの時間に成り果てているからだった。
それに比べて、この15時からのお昼寝タイム(別に昼寝じゃなくてもいいんだけど)は、びっちりスケジュールを組まれているあたしの花嫁修業の中で、唯一与えられた自由時間だったから。
本当は、15時から16時の間は、テレビを見たり本を読んだりするのも許されている。
でもあたしは、ただただ昼寝をするのを楽しみにしていた。
この後は夜22時まで何かと管理されているんだもん。
少しでも邪魔されないとしたら、あたしには昼寝しかない。
テレビを見ても本を読んでも、口出しをされるのなら(ここに来た当初、漫画を持ち込もうとしたら、文学読めとかメイドさんからご注進がいったらしく、先生の一人に説教された)、ただ寝ている方がいい。
幸い、あたしは寝るのが三度のご飯より好きなタチだった。
「…付き合うってどこへ行くの?その、あんまり時間ないんだけど」
とりあえず、目的がなんなのか聞かなければ断りづらい…もう、けっこう断る方向に頭が行ってるあたしってけっこう恩知らずなのか。
それなりに疚しく思いつつ、かまわないでオーラを醸し出す。
が、目の前のどう見ても人の気持ちの機微に疎そうな男は、やっぱり遠回しの拒絶など察してはくれなかった。
「ダチが新しい俺の婚約者を見たいっていうからさ。ちょうど試験終わって、明日からガッコも休みだし、ちょっと遊びに行くからお前も来い」
「はあ。そういえば、高校生は試験だったんだっけ」
だからといって、忙しいあたしを連れ出されても正直困る。
遊びに…という言葉には多少惹かれないわけではなかったけれど、自分の友達と出かけるならともかく、新しく飼った犬よろしく引き出されるのは気が進まなかった。
…こいつの意識だと、婚約者って言ったって、たぶんこの仔を飼うのとあまり変わらないんだろうし。
そう思うと、金で買われたといえ、さすがに気が滅入ってきた。
「…それって、あたしに拒否権ある?」
一応聞いてみるも、逆に「はあ?」と聞き返されて、コイツの頭の中では拒否のきの字もなかったのが、容易に窺い知れた。
「お前、この前も俺の誘い断ってたよな」
そんなことあったっけと、記憶を探るも憶えていない。
「バイク乗せてやるって言ったのに、断りやがっただろ」
「…ああ、そんなこともあったっけ」
あたしにしてみれば些細なやり取りだったので、気にしてもいなかった。
て、いうかさ。
なんで、こいつやたらとあたしに構うんだろう。
親の決めた婚約者なんてうぜぇって思わないわけ?
…まあ、いきなり初対面で押し倒して来るような非常識な奴だから、ちょうどいい玩具が手に入ったくらいの気持ちでいるのかもしれない。
あるいは…。
まさかね。
ないとは思うけど、一応は確認をとってみようか。
それによっては、こちらの対応も多少変わってくるよね?
「ねえ、どうしてあたしに構うの?」
「…はあ?」
「ダチっていうくらいだから、友達いないわけじゃないんでしょ?」
「バカにしてんのか」
「いや、そういうわけじゃないんだけどね」
これだけ無礼な男なら、人に好かれないんじゃないかと思ったとはさすがに言えない。
「それなら、親が決めた婚約者なんか放っておけばいいのに。最初の感じだと、あたしと仲良く円満な家庭を築きましょうって感じじゃなかったでしょ?」
ムッと口を尖らせる顔が妙に子供っぽい。
人並み以上に整った美貌が、大人びさせているだけで、この男が実はまだ高校生なのだとあたしに思い出させた。
「別にいいだろ。ごちゃごちゃウルセェ。とにかく、行くぞ」
強引に手を掴んで来ようとする手を掻い潜って後退り、さっきから疑問に思っていた問いをぶつけてみる。
「…もしかして、あんた、あたしのこと、好きなの?」

