Sweet Honey Baby

 「…おい、どこ行ってたんだよ」

 「どこって…」 




 広いとはいえ同じ屋根の下にいるのだから、咎められる筋合いはない。


 それにしても、この人、やたらと顔を見かけるけど、友達がいないんだろうか?




 「…それ、なんだ?」




 眉根を寄せて覗き込んでくる顔に、思わずのけ反って後退ったら、面白くないようにますます顔を顰められてしまった。


 あ、そうだ、そうだ。


 頼みたいことがあったんだった。


 腕の中の子猫をズズッと突き出し、




 「えっと、この子、ここで飼っちゃダメかな?」




 ストレートに切り出してみた。




 「は?」

 「えっと、だから、この子猫。親が捨てていったんだけどね、このままだと死んじゃうこと間違いないから、ここで面倒みていい?」




 見たからにあまりかんばしい答えが返ってこなそうだ。


 それでも一縷の望みをかけ、重ねて頼んでみた。




 「ね、お願い。迷惑かけないし、あたしがちゃんと面倒みるから」




 なんだか、小学生にでも戻った気分だ。


 それでも、頭一つで下げるだけでこの小さな命を救えるなら、それでかまわない気がした。




 「…俺、そういう小動物苦手なんだけど」




 ボソリと呟かれた言葉に、?と猫を見る。




 「いや、小動物っていうより、普通に猫なんだけど、なんかアレルギーとか?」

 「じゃねぇけど、そういう小せぇ生き物ってさ、なんだか足で踏んだらプチって潰れそうで気味が悪いんだよな」 

 「……」




 そりゃあ、生き物を潰したら気味悪いでしょうけど。


 予想外の返答に、何と答えてよいのか言葉に詰まる。




 「あんたの前には行かせないようにするから」




 て、いうか、どうせもう少し大きくならなければほとんど身動きもしない。




 「お前、学校あるんじゃねぇの?」

 「あ、ああ。一応、4月まで大学始まらないから、ほとんどここに缶詰だし」

 「遊びに行く日だってあるだろうよ」




 遊び…そんなものあたしに許されているのかはなはだ疑問で。


 ここ一か月半の経験を考えると、来年の結婚式まであたしに休日は設定されていない気がする。


 てか、誰も考えてくれてないでしょう。


 それなのに、目の前の元凶にそれを言われてしまうのも、なんだか遣る瀬無くて、曖昧に首を振って否定した。




 「ん~、約束したんだから、人に迷惑かけるようなマネはしないよ。あたしに部屋限定で飼うし、貰い手も探すから、ホント、お願い」 




 片手で猫を抱きしめて、もう片手で拝むように頼むと、チラリと猫に視線をやって、一也が呆れたように吐き捨てた。




 「猫なら、いくらでももっと上等なの飼わせてやるのに。わざわざ、そんな貧乏くせぇの飼いたいってか?」




 いや、貧乏臭いとか、上等とかそういうのは関係ないし。


 それでも、どうやら飼う方向で許されているのを感じて、一気に畳み込む。




 「い、いいの、いいの。この子で!お願い、飼わせて」




 はあっと息を吐き、肩を竦め、




 「ま、いいけどよ。…で、お前、時間あるなら、これからちょっと付き合えよ」