Sweet Honey Baby

 聞いてみるとお邸に入り込んだ野良ネコが子供を置いていったらしく、まだ目も開いていないので、このまま放置していたら死なせるのは目に見えている。


 かといって住み込みで働いている子が大半のこのお邸で、野良猫の子供など誰も面倒を見れるはずがない。




 「…このお邸で飼ってもらったらいいんじゃないの?」




 確か犬もたくさん飼っていたはずだ。


 もっとも番犬と同列の扱いをしてくれるかははなはだ疑問だったけれど、これだけ可愛いんだもん、ここの人たちも鬼じゃないだろう。




 「お邸…でですか?」




 遠慮がちにのりちゃんが、声を上げる。


 そこにはわずかな期待と…ダメだろうという諦めが多分に含まれていた。


 ダメかなあ。


 この家の人って猫嫌い?


 それ以前に、ここの家の人と言える人間をあたしは今のところ、一人しか思いつかない。




 「えっと、一也?ここの坊ちゃん。猫ってダメなの?」

 「…いえ、特に嫌いと言うことはないと思いますけど、ねえ」

 「ええ。確か番犬はかなり可愛がってらっしゃいますけど、猫はどうでしょう?」




 どうやら飼ったことがないので、メイドさんたちにも判断が付かないらしい。




 「そっか、じゃあ、あたし、聞いてみるよ」

 「「「えっ?」」」




 三人ハモってそんな驚いた顔しなくてもいいんじゃない?




 「なに、マズイ?」

 「…いえ、そんなこともないと思うんですけど」




 戸惑って見合わせている顔に、ふと思いついた。




 「あ、大丈夫だよ。ちゃんとあたしが拾ってきたっていうし。みんなに迷惑かけたりしないから」 




 ニッコリ笑っていったつもりなのに、なおさら困った顔の彼女たちにあたしの方が困ってしまった。 


 ま、しゃーないか。


 あたしはここでは異端分子だし。


 どの道、嫌と言うほどわかっていることなので、さっさと気持ちを切り替える。




 「にゃー、にゃー、お腹空いてますか~?」




 しゃがみ込み、手を差し出すとクンクン匂いを嗅いでくる。


 弱々しく体を震わせる子猫たちには頼りなく哀れをもよおす。


 それでも、母猫を求めて鳴く声には、貪欲に生きようとする力強さがあった。


 とりあえず、部屋に連れ帰ってミルクをあげなきゃ。


 子供の頃、親に怒られながら野良猫の子供を連れ帰った時のことを思い起こす。


 うちは食べ物屋だから結局飼うことは許されなかったけど、何人もの友達に頼んでやっと貰い手を見つけたっけ。


 抱きしめると獣の匂いに混じってミルクの匂いがする。 


 こんなに小さくてもしっかり温もりがあるんだ。




 「…あのお嬢様」

 「え?はい?」

 「その…お願いしてもよろしいでしょうか?」




 おずおずと、のりちゃんが伺いを立ててくる。


 それに大きく頷いて、ピースサインを返した。




 「うん、もちろん!でも、良かったらのりちゃんたちも、知り合いとか実家とかに猫の貰い手がないか声をかけてくれる?」


 頼めば他の二人も大きく頷いて、請け負ってくれた。


 ま、みんなで探せば貰い手の一人や二人見つかるでしょう。


 案外、ここの坊ちゃんも猫好きかもしれないしね。


 勝手な算段をつけて、部屋に戻ると。


 途中、デカイ影がウロウロと部屋の前で待ち構えていた。